K作戦決行!


「なぁなぁ聞いた!? 明日、大雪になるかもだってさ!」
「げ、折角の休みなのに!」
「じゃあ、部活も休みなのかな?」
 そんな賑やかな話題が、立海のあちこちで飛び交っていた。
 冬の寒さもいよいよ厳しくなり、その日の天気予報は何処の局も軒並み明日の未曾有の大雪警報を伝えていた。
 そんな学内の雰囲気の中で、桜乃はテニス部マネージャーの立場から、純粋に明日の予定について考えていた。
(大雪かぁ…明日は流石にお休みなのかな…一応、幸村部長に確認を取っておこうかしら…)

 そんな桜乃が昼休みを利用して幸村のいる教室に向かうと、どうした訳か他のレギュラー全員もまた、幸村の座る机をぐるっと取り囲んでいた。
(あら…? 皆さんも…)
 自分と同じ様に、明日の予定を聞きに来たのかしら…と彼女が思っている向こうで、幸村は非常に真剣な表情で口元を手で覆っていた。
「…そうか、明日の予報はやっぱり間違いないんだね…蓮二のお墨付きなら信じるしかないな」
「ではやはり、明日は?」
 副部長の真田が確認を取ると、部長はこくんと深く頷く。
「明日は非レギュラーは全員休部…俺達レギュラーは…希望者のみ参加という形で、K作戦を決行する!」
「よっしゃーっ!!」
 幸村の宣言に真っ先に反応したのは、二年生エースの切原だった。
 いつもなら部活動の練習はさぼりがちな若者だが、何故か今回に関してはやけにノリノリの様子でガッツポーズまで取っている。
「おお、今年は難しいかと思ってたけど、やるかぁ!」
「燃えるぜ〜い!」
 ジャッカルや丸井も後輩に続いて何かを楽しみにしている様子。
「…ふっ、いよいよ雌雄を決する時が来たようじゃのう、柳生よ」
「そうですね…私もこの時を待っていましたよ、仁王君…」
 仁王と柳生のペアに至っては、何やら奇妙なライバル心さえも燃やしている様子。
(ええ!? ナニ!? 何なのあの雰囲気!?)
 不思議に思いながら、桜乃は一歩遅れて彼らの輪の中に入って行った。
「あ、あのう…お邪魔します、皆さん」
「あ、竜崎さん、丁度良かった。明日の朝練は休みにするから、伝達を宜しくね」
 彼女の姿を見て、早速幸村が部長としての決定を伝えると、桜乃はこくんと頷いた。
 そしてその上で、改めて相手に尋ねる。
「幸村部長? さっきのK作戦って、何ですか?」
「え? ああ…」
 一瞬きょとんとした彼はそれから少し考えた後、レギュラー全員を見回して笑顔で頷き合い、相手に答える。
「特にテニスには関係ないことなんだけどね…そうだな、明日の九時以降なら雪も治まるらしいから、コートにおいでよ」
「あ、お餅とか持ってきてくれたら嬉しい〜」
 脇から、丸井が更に不思議な言葉を付け加えてきて、桜乃は首を傾げた。
「??? はぁ…分かりました」
 明日の朝、コートで何かが起こるだろうことは何となく察することは出来るけど…
 どうにも内容が分からない、と思いつつも、取り敢えず桜乃は明日の朝、コートに行く事を決めていた。



 そして翌日…
「ううわぁ、本当に凄く沢山積もってる〜〜…これじゃあコートでテニスはとても無理ね…でも、そんななのにコートにって……」
 律儀にお餅のパックを抱え、ついでにきなこやお醤油も持って、桜乃は雪が積もった道を難儀しながらも踏破し、立海のコートに到着した。
「…うわぁ!」
 いつものコートに雪が積もった景色の中、沢山の半円形の建物が!
「かまくらだぁ!」
 きゃ〜っと大喜びでその場所に向かうと、それらを作成した男達はスコップを地面の雪に突き立てた姿で一息ついているところだった。
 勿論、レギュラーメンバー達である。
「お、きたきた」
「お早う、竜崎さん」
「お早うございます〜〜! 凄いですね、皆さん。一人一つ作ったんですか!?」
 複数のコートに合わせて八つのかまくら…なかなか見ごたえのある風景だ。
 ジャッカルや幸村が桜乃を迎えている一方では、真田や切原が何かの記録用紙を熱心に見入っていた。
「おっ、去年よりは大きく作れたっすね」
「ふむ…雪の量にも関係しているかもしれんな」
 仁王と柳生はどうやらかまくら作成までの時間を競っていたらしいのだが、流石ダブルスペア、時間も互角だったようで、向こうで互いの健闘を讃えてハイタッチを交わしている。
「K作戦って…かまくらのKだったんですかぁ」
 桜乃の納得の台詞に、柳はうむと軽く頷いた。
「必須の行事ではないのだがな、遊びと足腰の鍛錬という意味合いを兼ねて、大雪の時には希望者のみで行うようにしている。出来た後には思い思いにくつろいで、近所の子供達にも開放している」
「ご近所さんとのお付き合いもバッチリですね」
「なぁなぁおさげちゃん! それよりお餅持ってきた!? 俺、腹減ったーっ!」
 彼らの間に丸井が割り込み、早速おねだり攻勢をかけてくる。
 成る程…このアイテムをねだったのもそういう訳があったのか…
「…でも、何処で焼くんですか?」
「真田が家から火鉢持ってきてるから! あと、ガスコンロもあるしさ!」
「ちゃっかりしてますねぇ」
 でもまぁ、折角ならこういう遊びも楽しまないとね。
 それから桜乃はレギュラー達と一緒にかまくらに入ってひとしきり遊び、くつろぎ、お餅を味わった。
「…かまくらは八つありますけど、やっぱり集まっちゃいますね」
「まぁね、何だかんだ言って、この賑やかさがいいんだよ俺達は」
「分かりますー」
 かまくらの中に篭り、切原や丸井達が元気に雪合戦を繰り広げている様子を眺めながら、桜乃は幸村の言葉に頷く。
 それからも、近所の子供達が歓声を上げて集まってくるまで、彼らは一時ののどかな時間を楽しんでいた……






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