どれだけの時間が過ぎたのか…
 最後に意を伝える神として立ち上がったのは…幸だった。
 白と景が…いや、全ての神々とその僕達が幸へ視線を向ける。
「…過去は過去として申し上げるのであれば…吾は人の世に干渉などしたくありません」
(…過去?)
 よく分からない話だな、と姫が思う中、幸は静かに語った。
「神であれば人に干渉していいという事にはならない…吾が今更こういう事を言うべきではないのかもしれませんが…人はこれからも生きるべきです」
 優しい言葉で、彼は語った。
「…これからも、この世という煉獄で苦しみ、生きるべきです」
 どよめく神々の中、白が何かに気付いた表情で幸を見つめ、景は楽しげに唇を歪めたままに瞳を伏せる。
「滅ぼすということは、或る意味ではこの世の全ての苦しみから救うということ…何の労もなく救われるなど、愚かな衆生には過ぎた幸福でしょう。それを吾ら神々が進んで行うなど、その愚に手を貸すと同じ…天意、吾は学んだのです…この世は人が簡単に死なぬ程度に苦しむには実に適した獄だと…ならば吾ら神々は、その人々が苦しむ様を、高みから眺めていたらいい…善き神々は彼らの善き行いを眺め、悪しき神々は彼らの堕ちる様を眺めながら在ればいい。なのに彼奴等の行く先も見ないまま、何故この遊び場を、吾ら自らの手で壊す必要がありましょうや…? 天意。望めばすぐに滅ぼせる、あんな小さな存在如きの為に…」
(幸様…!?)
 柔らかに咲く花が毒を持つ棘を潜ませているかの様な言葉に、桜姫がつい身を乗り出しかけたが、それはすぐに隣に控えていた弦によって阻まれた。
「弦様…」
「しっ…抑えよ姫…これでいいのだ」
 その彼の言葉が終わらぬ内に、再びあの白が言葉を紡いだ。
「天意、人にはまだまだ学ぶことがあります。全てを学んだ上で彼らが滅びの道を選ぶのであればそれも運命でありましょう。しかし、道を未だ踏破せぬ内にその道を阻むなど、それこそ吾ら神々の驕りでは? 滅ぼす事だけが道ではない、吾らが神を名乗るのであれば、救いもまた考えるべき道なのでは? どうか天意よ、彼らに今暫しの時間をお与え下さい…!」
『……なかなか上手い誘導だな…』
 くっと歪む唇を懐から出した扇でさり気なく隠しながら、景が幸に囁いたが、当人は薄い笑みを変わらず浮かべるだけで答えない。
 それから暫し再び神々のざわめきが聞こえてきたが…またも天意の声による沈黙が流れ、その狭間で、は、と弦が何かに弾かれる様に頭を上げた。
「……一難去ったかと思ったが…」
「…弦様? どうしたのですか?」
「…天意はあくまでも神々に裁きの手を委ねる様だ…ここに在る神々と僕達の意思…滅ぼすか、生き永らえさせるか…より多くの意思に此度の決は委ねると」
 勿論同じくそれを聞いていた景が、一足早くその場の神々の決を推測し、苦々しげに顔を歪めた。
「ちっ…最悪の結果になるか…」
「え…?」
 桜が景を振り返ると同時に、幸は、静かに前を見据えて尋ねた。
「…同数なのかい?」
「ああ…吾は朧気ながら相手の意志を読み取ることが出来る…ほぼ間違いない。悪神どもが間際で自害でもするかこちらに寝返るなどといった事がなければな」
 頷く景の表情は、いつになく重苦しい…何があったのだろう。
「…同数?」
「……天意はこうも伝えられた。何れかの意思に傾けば良し…もし同数で終われば、天意が人の世に一つの大きな戦を起こす、と」
「え…!」
「そして、残った人々にのみ生き延びる権利を与えると…考えようによっては、最も残酷な決となるだろう」
 弦の言葉に続き、厳しい表情のまま景は現実的な見解を述べた。
「未曾有の乱が生じる…幸の言葉ではないが、人の世は地獄になるぞ」
「っ! そんな…何とかなりませんか!?」
 桜は激しく狼狽して神々に問うたが、彼らは首を横に振る。
「今はもう天意の御前での決…その場での争いは神々も僕も禁じられている…こんな事ならもう少しあいつらを消しておくべきだったか…」
「それでも、幸があれだけ滅してそれで同数とは本来の結果を考えたら肝が冷えるな…人の悪意を受けて悪神どもの力が強くなり、善神が圧された所為もあるか…皮肉なものだ」
 景や弦がそんな事を言っている中、彼らの前にふわりと白い雪の様なものが浮かんできた。
「?」
「受け取ってごらん、桜姫…姫にも与えられた権利だよ」
「…紙…?」
 手を伸ばし、幸の薦めに従ってそれを取ると、掌に十分に収まる程の小さな白い紙切れだった。
「人を生かすか、それとも滅ぼすかを念じたら、その意思が紙に宿る…己の最終的な決断を天意に示すことで此度の決は決まるんだ」
「……」
 そんなもの、決まっている…自分にとっての決は決まっている、のに…
(ああ…私だけじゃなくて、宮で待っていらっしゃる皆様の分まで思いを込められたらいいのに…)
 叶うことはない…しかし願わずにはいられない…
「…」
 桜乃は必死に願いながら、小さな紙に祈りにも似た思いを捧げる。
 するとそれを受け取った紙は微かな光を帯び、自ら彼女の手を離れて円陣の中央へと吸い込まれてゆく。
 彼女のだけではなく、次々と他の神々や僕のそれらも吸い込まれていた。
「……?」
 不意に、景がきょろりと辺りを見回し、桜に問うた。
「そう言えば、随分と静かだと思ったが…あの餓鬼は何処だ?」
「え…?」
「…あの亡者の餓鬼は? 無論、あいつには参加する権利はないが…」
「…あっ!?」
 そう言えば、あの子…金太郎の姿が消えてしまっている!
 桜は慌てて周囲を見回したが、何処にも見当たらない。
「…魂の限界だったのか?」
「そんなっ…」
 弦が不吉な言葉を述べた時、いきなり円陣の向こうから騒々しい声が聞こえてきた。
 尋常ではない騒ぎ…悲鳴? いや、断末魔にも等しい声も聞こえてきて、全員は否応なくそちらへと意識を向けさせられる。
 そして彼らは見た。
 あの子供が…亡者の少年が、輝く一振りの懐刀をあの三つ目の妖に突き立てた瞬間を。


「何や!?」
「子供…っ!?」
 三つ目の隣にいた白達ですら、その時起こった出来事にすぐには反応する事が出来なかった。
 初めて…天意の集いでこんな騒動が起こったのは、初めてのことだったのだ。
 何が起こっている?
 誰がそれを起こしている?
 子供…? 何で子供がこんな処に…!?
「あ…」
 白が、限界まで瞳を見開き、その少年を凝視する。
 初めて…ではない。
 この子に酷く似ていた子供を見た…抱き上げ、その身体を弔った…
「あの子は…っ!!」
 己が救えなかった、あの少年だ…!!
 愕然とする白の見ている前で、少年…金太郎は爛々と瞳を輝かせながら、怒りも露にその僕の胸元に刀を突き立てている。
 神である幸の牙を削りだして作ったという…桜姫に預けられていた懐刀だ。
 その切れ味は凄まじく、苦しげな、憎憎しげな声を上げる三つ目の妖に、金太郎は相手の穢れた返り血を浴びながら声を上げた。
「見つけた! 見つけたで!! お前だけは絶対に許さへんっ! お前だけはーっ!!」
 全てを思い出した訳ではない…しかし、全てを忘れた訳でもない。
 朧気に浮かぶのは、自身の身体を引き裂きながら嗤っていた…この化け物の姿。
 家族…だったのかもしれない女性を、殺めた相手の姿。
 思い出す程に、血液が沸騰しそうな程に怒りが込み上げてくる!
 血に塗れた少年はぐぐぐ…と力を込めて刀を柄まで押し込んでいった。
 そして、遂に妖が糸が切れた人形の様にゆらめいた時、少年は物凄い跳躍でその場から離れつつ、空に手を伸ばして或る物を掴んでいた。
 紙だ…この妖が最後に意思を込めた…人が滅ぶべしと願った紙…
「コレが何やのか、ワイには分からんけどなぁ! お前のモンならそんなん、こうしたる!」
 天意にそれが届けられる前に、金太郎は禍々しい匂いを放つその紙を奪い取り、徐に口の中に放り込むと、そのままごくんと飲み込んでしまった。
 彼がまだ空中にいる間に全て終わってしまったことであり、誰も止める事など出来なかった。
「あかん!!」
「血を受けた上にあんな毒気を帯びたモン口に入れたら、身体が弾けるばい!?」
 謙と千里が危惧した事は、すぐに彼らの目前で具現化する。
「が…っ!!」
 苦しげな声を上げながら、金太郎は喉を掻き毟り、そのまま背中から落下してしまったのだ。
 最早、受身を取ることも出来ず、少年は全身に巡る毒気に全ての脈管を侵されている様な感覚に悶えるしかなかった。
 彼の身体が、消した妖の妖気をまともに受けた影響か、徐々に黒く変色してゆく。
 そんな少年に慌てて駆け寄った白が己の身体に掛かった影に気付き顔を上げると、あの妖の隣にいた別の仲間と思しき輩が、明らかな敵意をもって白へと襲い掛かろうとしていた。
 しかし本来であれば、白が襲われる道理は無い。
 仇討ちのつもりなのだろうか…どうやら、この少年は白と縁ある者と思われてしまった様だ。
「白!?」
 相手を守ろうとした謙を止めたのは、意外にも傍にいた千里だった。
「よかばい…手は出さん方がよか」
 既に先を読んでいる様な千里の視線の先で、白は…初めて左手を掲げた。
 いつも袖の奥に隠していた左手は真っ黒に染められており、彼はその手を己を襲おうとする妖に優しく触れさせる…
 しかしそれだけで、相手の身体は触れられた箇所から漆黒が宿った様に黒く染まってゆき、瞬く間に侵蝕は全身へと及び…
 相手は、声を上げることもなく倒れ…灰燼へと帰っていった。
 毒に侵された手が主の優しさの鎖から解き放たれ、敵に無情の牙を剥いたのだ。
「…ああ、これはすまん…つい止めようとして左手の方を挙げてしもた…堪忍や」
 『うっかり』触れてしまったと言う様に、白は静かに、申し訳なさそうに微笑む。
 それが真意だったのか、それとも欺きだったのか…
 いずれにしろ悪しき者達を優しい脅迫で静まらせた白は、それから改めて少年の傍で膝を付き、まだ苦しみの中にいる相手を見下ろした。
 その白の意識の中に、天意の声が届く。
 人の世が、ただ一つの差で救われたという事実を告げる声が。
 それを聞く一方で、謙と千里が改めて少年の素性について確認する。
「…この子の刀…幸のモンやないか」
「ばってん、どうやら幸はこの子は非常食やと言うとったらしか。直属の僕の粗相ならまだしも、『食べ物』の仕業については天意も文句は言えんばい…やられた方こそ、よか面の皮じゃけん」
 或る意味、自分達にとっては最良の結果になった訳だ。
「……」
 自分が救うことが出来なかった少年の魂…
 彼は己の仇討ちを果たすと同時に、人の世さえ救った。
 こんな小さな身体で…自分の願いを叶えてくれたのか…
 では…今、自分はこの子に何をしてやれるだろう…?
「…吾には…これぐらいしかしてやれんけどな…」
 微笑みながら、白は己の左手を金太郎の腹部に当てると、そのままずぶりと皮膚を突き抜けて内臓へと潜り込ませていった。
 まるで水面に手を差し入れ、奥をまさぐるように…白の左手は相手の腹部に潜り込み、暫くそこに留まっていたが、やがてずぬりと引き抜かれてゆく。
 血も流れることはなく、傷跡も残さず…しかし白の手にはしっかりと金太郎が飲み込んだ紙が握られており、それはすぐに毒に侵され粒子へと変わり、流れ、消えてゆく…
 そしてその時には、金太郎の顔には苦悶の表情はなく、眠るように意識を失っており、全てを見届けていた幸はくすりと笑って呟いた。
「…毒をもって毒を制す、か…相変わらず、甘いながらもやり手だね」
「幸様、金太郎さんは…!」
「大丈夫だよ、姫…もう大丈夫。あの子は、毒を打ち消されると同時に白の気を臓腑に受けた…彼は…白の妖になったんだよ」
 戸惑うばかりの姫に優しく言うと、幸はふいと顔を上げて笑みを深める。
「…決は成された…天意ももう戻られるらしい…やれやれ、此度の集いは色々な事がありすぎたね…」
 それからまた、天意は何かを神々へと伝えていた様だったが、その気配もすぐに消えていった。
(……え?)
 ふと、桜が首を傾げる。
 今、やっと少しだけ天意の声を聞けた気がする…でも……



 集いが終わった後、神々も僕も元の居場所に戻ってゆくのだが、幸は景と白達と、岩壁の場所で再び顔を合わせていた。
 行きこそ実力を試される道程だったが、帰りは彼らの神通力で十分に戻れるように制約が解かれているらしく、辺りに見える他の神々も何の問題もなく消えていく。
「今回は色々と助けられたな…礼を言うで、幸」
「吾は何もしていないけどね…言うなら、彼女に言ってよ」
 そう言って、視線で幸が示した先では、桜姫が金太郎からあの懐刀を受け取っているところだった。
「堪忍な、桜姫。勝手に借りてもうて…」
「金太郎さんがいなくなった時にはびっくりしたんですよ? でも、ご無事で良かった…これからは白様達と、共に過ごされるんですね?」
「うん、そうみたいや…もうワイの記憶も殆ど無いし、行く宛てもないし…一人でおってもつまらんもん」
「…そうですね」
 少女と少年が語らっている様を見ていた幸は、ふぅと小さく息を吐き出しながら白に語った。
「よくよく考えたら…柳生の星見は当たっていたよ。姫がいなければあの少年に会うことも無く、吾が神々を屠ることもなく、決は多数により決していただろう…そしてあの少年がいなければ、人の世は戦により乱れ、どの道騒がしいことになっていた」
「そうか…面白い姫君やな」
「そうだよ」
「……」
 ふふ、と笑う幸の表情を見て、白は何かを思ったらしいが深くは語らず、姫と話していた金太郎を呼び寄せる。
「金ちゃん、こっちに来いや…吾らの家に帰るで。それと幸…」
「ん?」
「…やっぱりお前さんは変わったわ。傍に弦や蓮が増えて、他の妖が集まるようになってから…吾としては、お前さんがずっとこのままであってくれたら有難いんやけどなぁ」
「……どうだろうね」
 曖昧な返事に留めながら、幸は彼らが消えてゆくのを見届けると、景へと視線を移した。
 向こうも、もう帝としてあるべき場所に戻ろうとしていた。
「景も、今回はよく動いてたよね」
「ふん、都には吾を生んでくれた人の親もいるしあまり騒がせたくもない。まぁ吾が神に戻るまでの短い夢だ…」
 くっくと笑いながら、景が足元から薄く消え去ってゆく…都に戻るのだ。
「この世は夢よ、ただ狂え……人ほどに狂う様が面白いものはない、せいぜい間近で見て楽しむさ…じゃあな」
「そういうことにしておくよ」
 本心はどう思っているか知らないけどね…と言いつつ相手を見送ると、幸はそこでようやく弦と桜へと振り返った。
「…じゃ、吾らも戻ろうか…皆も待っていることだし、心配を掛けたくない」
「今からどう説明するべきか、吾は多少頭が痛いぞ…姫が無事だったから良かったものの…」
「ふふ…それは吾も詫びないといけないところだよね。お陰でまたいじめられちゃったけど」
 そんな言葉を言って微笑む神を見上げながら、桜はあの時…ほんの少しだけ聞く事が出来た天意の声を思い出していた。
 あれは、本当にそう天意が言ったのだろうか…それとも、聞き違いだったのだろうか…
(…違う、よね…きっと…)
 慣れていない自分だから、きっと何かを間違って聞いてしまったんだ…
 桜は、その言葉は忘れることにしようと心に決めて、それについて弦や幸に尋ねることもなかった。

『…またいずれ……邪神、幸』


 そして幸達も無事に彼らの宮へと戻り、残っていた妖達の歓迎を受けた。
 天意の今回の意図と、姫が迷ったというかなり大きな出来事を知った彼らは一様に驚き、騒ぎにはなったものの、結局は人の世が続き彼女が無事に戻ってきたことで、最後は良かった良かったと落ち着いたのである。
 そして、神々とその妖達は以後も静かにそれぞれの領域を守りながら平和に暮らしていた……のだが……



 或る日の幸の宮…
「君達さぁ…自分ちの社が壊れる度にウチに居候しに来るのやめてよ」
「すまんすまんすまんっ! ホンマに堪忍や〜〜!!」
 珍しく、幸が渋い顔で説教している前で、白が平謝りに謝っていた。
「…で、今度はどうしたの?」
「…金ちゃんが社の近くで熊と猪を見つけて、二匹と格闘しとるウチに社の中に飛び込んできてもうて…」
「……」
 呆れて声も無い幸の間の向こうからは、相変わらず金太郎に振り回されているらしい桜の声が聞こえてくる。
『もう〜、金太郎さんったら、ちゃんともぐもぐしないとダメですよ! また喉に詰まらせちゃいますよー!?』
『だって美味いんやもん、これ!!』
 賑やかしい向こうの様子を聞きながら、幸の間に同じく座していた弦と蓮は、白の僕である謙と千里と向き合っていた。
「まぁ元気な子だとは分かっとったばってん、まさかあそこまでとは白も読めんかったごたるね」
「良い笑顔でそういう事を言われてもな…」
 むっす〜と渋い顔で千里と語る弦とは対照的に、蓮は面白い研究対象を得たとばかりにあの少年に興味を寄せている。
「まるで大陸にいるという怪力の童子の様だな…面白い子だ」
「そう言ってくれると有難いわ…あいつはあいつで、ここに来るのを楽しみにしとるみたいやからなぁ…まさか、来る為に社を壊しとる訳やない…とは…」
「…相手と話す時には目を見て話すように」
 そんな風に謙がちくちくと蓮からの視線攻撃を受けている頃、他の妖達は宮の外にいた。
「千里達以外の妖は、今は木の実採りかぁ…あいつらが来るようになってから、ここの獣の数が少なくなってる気がする…」
 自分達の食料までもが食い尽くされてしまうのではないかと本気で心配している文太の隣では、胡坐をかいている仁王が肘をつきつつ苦笑していた。
「あの勢いにはついていけんの〜、しかしどうせなら、都に行った方が見るものはあるんじゃないかの」
「…見事な破壊っぷりに景が激怒して追い出したらしいですよ」
「実行していたのか…」
 柳生の補足に悉伽羅がひえぇ、と驚き怯える隣では、赤也があーあと腕を頭の後ろで組んで、つまらなそうに唇を尖らせた。
「手が掛かるのは分かるッスけど…姫をずっと独り占めしてんのはずるいんじゃないっすか?」
 賑やかになったのはまぁいい、ねぐらの一部を貸すのも、まぁ主の神が許しているのなら自分達がとやかく言うことではないだろう。
 しかし、可愛い姫がずっとあの子に付きっきりになっているのは…何となく納得出来ない。
(また厄介な奴が妖になったもんだ)
 例外なく妖たちが思う、或る日の昼下がりだった……





*本来、神様の数え方は一人、二人ではなく一柱、二柱というのですが、当シリーズではどうにもそぐわないので、一人、二人という風に記載しております。事後承諾で申し訳ありませんが、その様にご理解をお願いします〜(^^;


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