その日の朝の出来事も受けて、流石にこのままではいけないと思ったジャッカルは、丁度昼休みにレギュラー全員で食事を食べる機会を利用し、改めて彼らに釘を刺しておくことにした。
「いいか? お前らの気持ちは有り難いし、感謝もしているけどな、俺は桜乃に人並みの恋愛もさせてやりたいと思ってるんだ。あいつにまだそういう興味がないのなら仕方ないが、お前らが前面にしゃしゃり出てきたら、折角出てきた芽だってダメになるだろうが」
 ぶつぶつとそう苦言を呈しているジャッカルを他所に、テラスに集った他のレギュラー達はのんびりと楽しい昼食タイム。
「あ、それ一個頂戴、赤也」
「んじゃそれと交換でどうでしょ?」
「人の話聞いてんのか?」
 いらっと心をイラつかせながら、おかずの交換を行っている丸井と切原に声を掛けたジャッカルに、聞いてる、と仁王が答えた。
「しかし今更そんな事を言われてものう…俺らは率先してその芽を潰しとる訳じゃし」
「ええまぁそうじゃないかなーって思ってはいたんですけど、一応、遠慮して言ってみた訳ですよ…」
 やっぱりそうか…と思いつつせめて丁寧語で嫌味を言ってみるものの、通じる相手ではない。
 そんな彼らの会話の中に、部長の幸村が割り込んできた。
「でも年頃の女子だしね…素直で良い子じゃない、彼女。ああいう子っていうのは、目立たない様でいて、結構男子からは注目の的になりがちなんだよ。その分、危険性も考えた方がいいんじゃない? ジャッカル」
「い、良い子だって事は分かってる! けどお前らのやり方じゃ、あいつにいつ恋人が出来るか…」
「では、恋人になりそうな男性でもいるのか?」
「う…」
 真田の尤もな発言に、ジャッカルはどもった。
 それは正直分からないし知らない…が、もし知っていても自分が言う訳にはいかないだろう。
 おそらく、それを暴露した時点で、こいつらは一斉にその芽を潰しに掛かるのだろうから…
「そ、それはよく分からないけど…」
「…では、本人に聞いてみては如何でしょう」
「へ?」
 何を誰に?とジャッカルが問う間もなく、柳生が立ち上がって、テラスの向こうにある石畳の道の方に手を振った。
「桜乃さん」
「!」
 はっと振り返ると、そこには同じクラスの級友らしい生徒達と一緒に歩いている桜乃の姿があった。
 昼休みということで、皆で天気の良い外に散歩がてら歓談に出ていたらしい。
「あーっ! 皆さん! ジャッカルお兄ちゃんもー!」
「さ、桜乃!?」
 今までの会話が聞かれていた訳ではないのだが、つい軽く身構えてしまったジャッカルに、妹がぱたぱたと走り寄ってくる。
「今日はお兄ちゃん達も外でお食事?」
「あ、ああ…」
 微笑みながら話しかけてくる妹の傍に同じく近づいてくる級友達は、女性陣は一様に滅多に近くで見る事が出来ないレギュラー達を憧れの目で見つめており、男性陣は桜乃と彼らの関係を窺うように何度も視線を交互に泳がせている。
「お前もそうか?」
 真田の問い掛けに、桜乃ははい、と素直に頷いた。
「ぽかぽかしていると気持ちも軽くなってきて、つい外の空気を吸いたくなっちゃいますから」
「そうか…」
 厳格な副部長さえも優しく頷いたところで、最初に声を掛けた柳生が再び桜乃に向かって口を開いた。
「ああ、そうです…ところで桜乃さん、今丁度、私達の中で話していたのですが…」
「はい?」
「桜乃さんは今、恋人はいらっしゃるんですか?」

 びくっ…!!

「なっ…お前何を言って〜!」
 単純にジャッカルが相手の質問に驚き、突っ込んでいるその脇で、他のレギュラー達は桜乃の背後にいた複数の男子生徒達が動揺する様を見逃さなかった。
 今も名も知らぬ後輩達の視線は、明らかに桜乃の反応を気にしてちらちら向けられている。

(脈アリと見た…)

 そうか、こいつら彼女を狙っているのか…と立海のイケメン軍団が思っている間に、質問を受けた当の桜乃は、「え?」と軽く頬を赤らめたものの、すぐに手をひらっと振って笑った。
「あはは、いませんいません」
 別に隠すでもない、正直な反応…
 しかし、それは既にレギュラー達にしてみたら分かりきったコトだった。
 これまで毎日、傍で何かと目を掛けてやっている少女である、そして自分達はその中で彼女の心の機微を見逃すほどに抜けているつもりもない。
 自分達が本当に知りたかったのは…彼女の背後に立っているクラスメート達の反応そのものだったのだ。
「やっぱり憧れるんですけどね〜、まだ日々の学校生活だけで手一杯なんですよ〜」
「成る程、そうですか。しかし貴女なら、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ」
 少女と紳士のさり気ないやり取りを聞き、どうやら桜乃がフリーだという事を確認した男子生徒達が、ほーっと肩を撫で下ろしたり、息を吐き出している。
 しかし…
『あ〜あ〜、安心しちゃってまぁ……ロックオンされたのにも気付かねーでよ』
『取り敢えず、奴らの参謀のブラックリスト入りは確実じゃな…』
 そんな詐欺師の言葉通り、柳は脈アリと判断した男達の名前と顔を確認し、何事かを物凄い勢いでノートに書き連ねている。
 これから彼が…彼らがそれを元に何をするのか…分かりたくはないが既におおよそ見当がついてしまった。
 きっと彼らが桜乃に近づこうとした時に、積極的にブロックするつもりだ…
「お前ら俺と桜乃に何か恨みでもあるのか……?」
 どうやったらここまで徹底した企みが出来るんだ…というジャッカルの力ない呟きに、幸村はにこりと笑って爽やかに答えていた。
「嫌だな、二人が好きだからこそじゃない」



 放課後…
「好きだという気持ちがこんなに重いとは…」
「可愛い女の子だったら良かったッスねー、まぁ部長の顔も十分に綺麗ですけど」
「俺にそういう趣味は無い」
 ジャッカルは丁度部室に行く途中の道すがらで会った後輩と、そんな取りとめもない話をしていた。
 昼までは、何とか仲間達の桜乃への過剰な包囲網を解かせようとしていたジャッカルも、事ここに来て一気に脱力感に襲われてしまっているらしく、言葉に力がない。
 まぁ彼の場合は普段からこの時間帯になると、既に疲労が溜まっている事が多いのだが…専ら後輩や相棒の所為で。
(まぁ今は桜乃自身もそれ程焦ってる感じでもないし、そういう時が来たらまたおいおい相談に乗ってやってもいいか…しかしなぁ…)
 七対一じゃあどう考えても分が悪いぞ…と思っていた苦労性の兄が、ふと部室がある海林館へと視線を遣った時、そこに見えた人影に足が止まった。
「ありゃ、桜乃?」
「へ? あ、本当だ」
 見えた長いおさげと細い身体…紛れもない自分の妹である。
 その彼女が、何故か鞄を持った姿でとととーっと海林館の横を抜け、何処か校内の一画に向かおうとしている。
 方向からしたら、校舎の裏に当たるが…?
「おかしいな、アイツは帰宅部だし、俺に用があるならいつも通り部室に来る筈なんだが…」
 そもそも、こんな放課後に、校舎裏に何の用が…?
 疑念を持ったジャッカルに切原がデビル宜しく悪魔の囁き。
「ここはジャッカル先輩、レッツ尾行ッスよ!」
「う、し、しかし、そういう事は…」
「もし、いじめっ子達に呼び出されていたらどうするんスか?」
「…………」
 結局、ジャッカルは悪魔の囁きに抗えず、その悪魔と一緒にこそこそこそ…と桜乃の後をつけてみた。
 尾けられている立場の桜乃は、別にそうされても構わない、というよりも、そうされることなど夢にも思っていない程の無頓着さで、とことこと歩き続けている。
 向かう先は…やはり校舎の裏か。
「…あ」
 不意に切原が声を…小さな声を上げる。
「? 何だ?」
「…そう言えば校舎裏って、告白の定番の場所ッスよね」
「!!」
 ジャッカル自身も恋愛には無頓着だった所為もあってか、彼は後輩に言われてようやくその真実を思い出す。
 そうだ!
 校舎裏にある木の下で告白をするのは、ウチの学校の生徒にとってセオリーだった!
 と言う事は、まさか桜乃は…
「え、え、え…!!!」
 今まで、桜乃に平凡な青春を…と言っていたジャッカルだったが、ここに来ていきなりの展開に明らかな挙動不審に陥ってしまった。
『ちょ、まさか桜乃の奴、誰かに告白をっ!? えええ、誰なんだ相手は!? お、お、俺はどうしたらいいと思う!? おいっ!!』
『ぐええええ!! とっ、取り敢えず、首から手を離して下さいッス!!』
 動揺のあまり後輩の首に両手を回してぐいぐいと締め付けたジャッカルは、何とか彼を扼殺する前に手を離し、多少は落ち着きを取り戻しながら桜乃の後を追った。
 追えば追うほどに、後輩の指摘の通り、妹はあの告白で使われる一本の木へと近づいてゆく。
『………あ、アイツはっ!!』
 そして、いよいよ桜乃から少し離れた茂みに身を隠し、向こうの様子を窺ったところで、ジャッカル達は桜乃が立った木の下に、先に来て待っていた一人の人物を見つけた。
 見知っている相手ではないが、見覚えがある!
『アイツ…昼に桜乃ちゃんと一緒にいた奴の一人じゃないッスか?』
『…やっぱりそうか』
 自分だけではなく、後輩もそう言うのだから間違いではないだろう…昼休みに桜乃と一緒に歓談していた同級生の内の一人だ。
 二人が茂みから相変わらず様子を窺っている向こうから、その男子生徒がいる事に気付いた桜乃の声が小さく聞こえてきた。
「ごめんね、遅くなっちゃって……でも、お話ってなぁに?」
「あ、その…」

『!?』

 聞こえてきた会話に、思わずジャッカル達が顔を見合わせた。
 これはほぼ間違いなく、愛の告白のワンシーンの一歩手前…しかし、だ。
 ちょっと待て、今の話だと、桜乃は告白する側じゃなくて…される側なのか?
『うーん……ちょっと頼りない印象も受けるが、桜乃を選ぶとは見所のある…』
 ここは兄として見守らなければ…とすっかり落ち着いてしまったジャッカルとは対照的に、今度は切原が騒ぎ出した。
『何呑気なコト言ってるんスか〜〜っ!! ほぼ告白だと分かった以上は阻止でしょ阻止!!』
『い、いやしかしなぁ…』
 ようやくあの妹に巡ってきた縁ならば、見守るのが自分の役目なのではないか…もし相手がロクでもない奴だったら、速効で奪い返すとしても、最初から突っぱねるのは如何なものか…
 ジャッカルが悩みつつも切原を押さえている間に、向こうの若者はいよいよ桜乃に本題に向けての話を始めていた。
「え、ええと…桑原さんって、まだ好きな人いないって、昼休みに言ってたよね?」
「? うん、そうだけど…それがどうかしたの?」
 普通、ここまで突っ込まれたらこの先の話など想像するに難くない筈なのだが、桜乃はまるで分かっていないらしい。
 きっと、この場所がどういう処なのかすら知らないのだろう。
 そして、あの若者が遂に告白の言葉を口にするかと思われた時…!
「やぁ、いたいた」
「!?……あれ? 幸村先輩?」
 そこに、テニスウェアーを纏った一人の美丈夫が乱入してきた。
 テニス部部長の、幸村精市だ。
『幸村―――――――っ!?』
『ナーイス部長っ!!』
 驚愕するジャッカルの隣で、切原がぐっと勢い良く拳を握った。
 そんな二人が覗き見ている向こうで、幸村はうろたえている男子と、きょとんと不思議そうな表情を向けている少女の傍へと歩み寄って、軽く彼らの顔を見回し、にこ、と笑った。
「丁度、部室の脇を抜けていく姿が見えたから追い掛けて来たんだ。あ、ゴメン、お友達も一緒だったんだ、邪魔したかな」
「い、いえ」
 そうは言ってはいるが、名も知らない若者の挙動が怪しいものになっている…明らかに、邪魔されてしまった事でペースを乱されてしまったという感じだったが、幸村は気付いていないのか、或いは気付きつつも無視しているのか、それに構わず話を続けた。
「桜乃ちゃん、部室にマフィンがあるんだよ。君の分もあるから一緒にどうかと思って…柳生が美味しい紅茶も淹れてくれてると思うよ」
「ええ、凄い! 嬉しいです幸村先輩…あ、でも今は呼ばれて来ていますから、そのお話が済んでからで…」
 流石に呼んだ少年を蔑ろにしたまま場を去ることはせず、桜乃はそう断り、相手との話を再開させようとしたのだが…
「ふふ……嫌だな、精市って呼んでよ」

『!!!???』

 いきなりの部長の爆弾発言に隠れていた二人が硬直していると、更にぶっ飛んだ言葉が飛んで来た。
「俺達、もうこれからを約束した仲じゃない」

(んな〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!??)

 もう少しで声を出すところだったが、ジャッカル達は何とか耐えた…と言うよりも、もしかしたら声が出したくても出せない程にショックだったのかもしれない。
 そしてショックを受けているのは彼らだけではなく、桜乃に告白をしようとしていた同級生も同じだった。
 まぁ、今から告白しようとしていた女性が、既に誰かと恋の先約をしていたと知ったらそれが当然の反応だろうが。
「ちょ、ちょっと幸村先輩!? そんな言い方は…」
 しかも桜乃はその言葉に思い当たる節があるのか、顔を真っ赤にしながら相手を諌め、彼はくすくすと察している様に笑った。
「ふふ、ごめんごめん、内緒だったね……あ、ところで君、桜乃ちゃんに何の用だったのかな…俺、席外した方がいい?」
 幸村に話を向けられた少年は、しかしもう殆ど口を利ける状態ではなく、ぶんぶんと首を横に振った。
 確かにこの状況で、桜乃に対して求愛をするなど常人が出来る訳が無い…
「…いっ…いえ…もう、いいです!」
「え…?」
 桜乃がどうして?と問い掛ける前に、相手はだーっとその場を走り去っていってしまった。
 残されたのは、幸村と桜乃……と、陰に隠れている二人だけ。
「??? どうしたのかなぁ…」
「さぁ」
 その結果を招いたのは紛れもない自分であると知っていながら、しれっとしらを切った幸村だったが、そこでようやくジャッカルが切原と一緒に飛び出してきた。
「幸村―――――っ!! お前、いつの間に俺に内緒で桜乃にちょっかいを〜〜〜っ!!」
「ぶ、部長!! マジっすか!? 今の話はっ!」
「やぁ、出てきた出てきた」
 どうやら二人が隠れていたことも部長はお見通しだった様で、驚きもせずに彼らを迎える。
「お兄ちゃん!? 切原先輩も…どうしたんです?」
 一方桜乃は何事が起こっているのか全く分かっていない様子で兄達を見遣ったが、そんな妹に構わずジャッカルは尚幸村へと激しく迫った。
「さっきの言葉はどういう意味だーっ!! もし健全なものでなかったら…!!」
「ああ、さっきの?…」
 何を問われているのか当然よく分かっている部長は、慌てるでもなく悪びれるでもなく、けろっとした顔で答えた。
「今日、『これから』テニスを教えるのを『約束していた』んだよねぇ」
「来週から体育の授業がテニスで、運動音痴だから少しでも予習しておこうと思って…もう、恥ずかしいからばらさないでって言ってたじゃないですかぁ」
「ごめんごめん」

 ばったり…!

 事の顛末に、最早ジャッカルはヒットポイントがゼロになった主人公の様に倒れてしまう。
 そういう下らないオチがくるとは…っ!!
 まぁ、妹の純潔が守られたのなら、良かった…のか…?
「……ところで、ジャッカル…さっきのはちょっと納得出来ないな」
「へ?」
 安心しかけたところで、ジャッカルに何処か冷えた幸村の声が届けられ、顔を上げると、まともに相手の視線とぶつかった。
 その威圧感にジャッカルが身を竦ませると同時に、すっと顔を近づけてきた幸村は、桜乃に聞こえない程度の小声で、ひそ、と相手の耳に言葉を吹き込む。
『あんな頼りない男に大切な桜乃ちゃんを任せようだなんて…しかも、あんな男が桜乃ちゃんを呼び出して告白するのは許せても、俺が桜乃ちゃんに近づくのは許せないの…?』
「う…っ!」
 それはお前が告白どころか、それより遥かにいかがわしい発言をしたから…とは流石に言えず、痛いところを突かれた兄に、相手がとどめの優しい笑顔。
「折角妹のピンチを救ってあげたんだから、感謝はしてくれないと…ね?」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 幸村の精神攻撃を受けた時点で、遂にジャッカルの思考と疲労は限界に達してしまった。
「うわ――――っ!! てやんでーバーローちくしょーありがとお〜〜〜っ!!!」
 よく分からない、と言うよりも全く意味不明の叫びを上げながら、ジャッカルがその場を走り去っていく。
「お兄ちゃ――――んっ!?」
「あー…キレたか先輩…」
 まぁ、今日は特に色々あったし…でも、いつもの様にグラウンドを周回して気が済んだら戻って来るだろうな…と思いつつ、切原は相手を哀れんで十字を切っていた。



 その頃の部室内では、他のレギュラー達がのんびりと部活動の前の一時を過ごしていた。
「…ジャッカルが凄え勢いでグラウンド走ってんだけどよい…」
「おそらく精市に何か言われたんだろう…ストレス発散の為にもさせておけ」
 丸井が少し気の毒な表情で訴えたのだが、それは即座に柳によって却下される。
 隣では、淹れたての紅茶をカップにとぽぽーっと注いでいる柳生が、はぁと溜息を漏らしていた。
「…桑原君は、桜乃さんの恋人が私達の誰かになるかもしれないという可能性に、まだ気付かないのでしょうか…」
 自分達が桜乃を猫可愛がっている事実は認める…他の男から彼女を守っている事も認める。
 それを向こうは『過保護』だと判断している様だが、そこから彼女との愛が芽生える可能性があるという根本的な事実に、何故に彼は未だ気付いていないのか…?
「気付きたくないから目を逸らしとるんじゃろ…下手に認めたら、それこそショックじゃろうからなぁ…」
 やれやれと苦笑する仁王が紅茶の入ったカップの一つに手を伸ばしている一方で、真田は渋い顔をしながらもう一人の親友についても言及した。
「…精市の奴もまだ根に持っているのか……持つだけ仕方ないというのに」
「それもいずれ落ち着く、根に持つと言うよりも羨んでいるのだろう…さて、ジャッカルが戻ったところでマフィンを開けるか」
 今日の昼休みの時間、兄の目をこっそり盗んで幸村にテニスの指南を願った桜乃に、幸村はある簡単な質問をしていた。
『ところで桜乃ちゃん、仮に俺達レギュラーの中で恋人にするなら誰が好み?』
 その問いに、桜乃は迷う事無く即座に答えたのだ。
『ジャッカルお兄ちゃんですよ!』
と……

 グラウンドを走っている果報者であり不幸者である若者が、いつかその事実を知る時は来るのだろうか……?






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