暫くして、桜乃が消えたテニス部の喫茶店でもちょっとした異変が起きていた。
 今まで結構混んでいた店内が、一気に客足が衰えてきたのだ。
 少しは休める口実になるのでそれは男達も歓迎していたのだが、それから更に時が過ぎ……
「…幾らなんでも遅すぎる」
「そうだな…おかしい」
 実に真剣な表情で一言幸村が呟き、それに呼応する形で真田が頷いた。
 みんな、何が、とは言わない。
「あの竜崎さんが、こんなに時間を空けて連絡一つないというのは考えられません」
「今までも、少し席を離れる場合も絶対にメールとかくれてたもんな…心配だよぃ」
 既に竜崎がいない事が問題なのだという前提で、男達は会話をしながらどうしようかと思案する。
「何処かで楽しんどるならいいんじゃが…竜崎らしくないんが気になる」
「…何かがあったと思いたくはないが、やはり一度探した方がいいな…ここから近い場所で現在時間、多くの人間が集まりそうな場所は…ふむ」
 祭全体のスケジュールをパンフで確認していた柳がぴ、と指差したのは、ここからすぐ近くの講堂だった。
「今、この時間、ここでコンテストが行われているらしい…大きなイベントだから人もかなりの数集まっている。もしイベントを見ようと思って足を踏み入れていたとしたら、そのまま人の波に押されて出られなくなっている可能性もあるな」
「成る程ね…講堂は広いから、先ずはみんな一緒にそこに行って彼女を探そう。もし見つからなかった場合は分散して各自で探す…どうかな」
「よかろう…時に蓮二、コンテストというのは何に関するものだ?」
 真田の質問に、柳は一瞬口を閉ざすと、不満顔で答えた。
「…第一回美少女コンテスト」
「一回こっきりにしてほしいものだな!」
 見事に眉間に深い皺を刻みながら、真田は他のメンバーと一緒に喫茶店を飛び出して行った。
「うん…少し俺達は席を外すよ。やり方は分かっているよね…じゃあ、宜しくね」
 裏方で非レギュラー達に簡単な指示を出した後で、幸村も他のメンバーと一緒に店の外へと出て行った。
「しっかし美少女コンテストなんて、よく開催出来たッスねぇ…」
「…何しろ、今年のテーマは『萌え』じゃからの」
「ああ、そうだったなぁ…」
 仁王の鋭い指摘に、ジャッカルが走りながらもげんなりとする。
「はは…そういやおさげちゃんも今はメイド服だっけか? あれはあれで『萌え』ポイントなんだろい? 俺もじゅーぶん萌えるけどな〜、おさげちゃんなら」
「丸井君、ふざけていないで、今は彼女の安全を確保することが最優先ですよ」
「分かってるって」
 そんな話のやり取りの中、一人、仁王だけが実に渋い表情をしていた。
(メイド…萌え…コンテスト……まさか、のう…)
 ここまでキーワードが揃っていると…やはり最悪の事態を予想してしまうんじゃが……
 しかし何となく今それを言うのは気が引けて、結局彼は沈黙を守ったままに講堂へと移動した。
 そこはかなりの人数を収容出来る空間である筈なのだが、それでももみくちゃにされてしまうほど、人口密度が高くなっていた。
 一般人も多いが…やはり生徒の姿が割合の多くを占めている。
「ちょっと前まで行ってからそれぞれで別れようか」
 幸村に付いて、他のメンバー達がぞろぞろと講堂の立ち見客の間を歩いて前へと移動していた時、そこで行われていたコンテストは正に佳境を迎えている様で、人々の熱気は最高潮に達していた。
「な…何だか凄い熱気だね」
「もうすぐ発表が行われる様だな」
 幸村が戸惑い、柳が冷静に分析している脇で、切原がうげーっと人の多さにげんなりしながらささやかな願いを口にした。
「さっすがにここまで人が多いとジャッカル先輩の視力でも難しいでしょうね、見つけんの…せめて、目立つところにいてくれたら…」
 その言葉と重なる形で、コンテストの司会者らしき男の声がマイクを通じて講堂中に響き渡った。
『今年の栄えある優勝者はーっ! ゴミ捨て場から参加した麗しきサンドリヨン(灰被り姫)!! 匿名希望のメイドちゃんで――――――――っす!!!!!』
 大きなステージに上がっていた複数の女性達の中に佇む一人のメイド…間違いなく竜崎桜乃だった。

『目立ち過ぎだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!』

 うわあ――――――っと講堂に響き渡る大歓声。
 対して、ぎゃあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っとメンバー全員がステージを見て心で悲鳴を上げている中、仁王だけは達観した様な…諦めたような表情を守っていた。
(あ〜〜〜……予感的中じゃのう)
「なななななっ! り、竜崎〜〜〜っ!?」
「何がどうなってんだぃ!?」
 ジャッカルがうろたえ、丸井がきょろきょろと仲間を見回している間に、当の桜乃が司会者に促されてステージ中央まで連れ出され、それに伴い講堂中から激しい拍手が沸き起こった。
 何だ、このノリノリの雰囲気は……
『いや〜〜、他の参加者をぶっちぎっての優勝、おめでとうございます!! 何と投票者の八割がこのメイドさんに投票してくれました!』
「その八割の奴らを連れて来い…まとめて火あぶりにしてやる」
 拳をぐっと握り締め、ぷるぷると震わせる真田の目は既に血走っている。
 切原の暴走時もかくやと思わせる激怒振りに、傍の切原本人がひいいいっ!と心で悲鳴を上げた。
『では優勝者にインタビューです! どうですか、今の気持ちは!』
 司会者にマイクを突き出された桜乃は、動揺も露におろおろと戸惑っていた。
 明らかに、自分から立候補した感じではない…きっと何かの手違いで半ば強制的に参加させられてしまったのだろう。
『あ、あのう…私、早く帰らないといけないんですけど…お仕事、残ってますし…』
『いやいや、流石メイドさん!! どんな時でも仕事第一とは徹底した役作りです!』
「離してやれっつーんだ!!」
 役作りじゃなくてそれが本音なんだよっとジャッカルが怒るが、当然、ステージまでは届かない。
 そうしている内に、更にステージ上の話は進んだ。
「さて、ここで優勝者への賞品ですが…賞品は、好きな人からのキスです!!」

 どわあぁぁぁぁぁぁっ!!!!

 天井を抜く程の歓声が講堂に響き渡り……メンバー達は一瞬意識を手放した。
 無論、一瞬だけである。

『なに〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!????』

 少女の唇の貞操が危ない!?と彼らはやおら慌て出す。
 無事でいたことには安堵したが、更に別の危険が迫っている!!
「竜崎さん!?」
 聞こえなくても、幸村はどうしようと動揺も露に桜乃に向けて叫んだ。
 自分達が大事に可愛がっていた妹分が、あんな下劣な余興に参加させられたばかりか…望まない行為まで強制されているかもしれないなんて!!
「仁王君、何とかなりませんか」
「はぁ…詐欺師でもお手上げじゃよ。こりゃあ、ここで何か一騒動起こさんと、止めるのは無理じゃな」
 男達の動揺も空しく、司会者のマイクが再び桜乃に向けて突き出された。
『ではメイドさん、あなたの好きな方は、どなたでしょう!?』
『あ…好きな…人ですか……あの』
 桜乃の意外な反応に、メンバー達が動きを止める。
 まさか…誰かの名を言うつもりなのか!?
 じっと彼らが聞き入り、講堂中の客もまた静かに彼女の声を待った。
『…立海の中学男子テニス部…の、レギュラーの方々が…大好きです』
 はにかんだように微笑み、照れて赤くなってしまった頬に片手を当てながら首を傾げる桜乃は、殺人的に可愛かった。
 その姿と答えに、再び講堂中は大騒ぎ。
「ちょっと、テニス部レギュラーって…」
「幸村さん達のことでしょ! そりゃあ気持ちは分かるけど…!」
「相手は一人だけでしょ?」
 ざわざわとした喧騒の中、メンバー達が無言のままに互いに視線を交し合った。
 俺達が……大好きだって……
 彼らが魂を抜かれている間に、司会者が改めて桜乃に尋ねた。
『い、いや、相手は一人だけなんだよねー、その中で一番好きな人は誰かな?』
『全員が大好きです…本当に素晴らしい方々ばかりですから、一番なんて決められません……強いて言うなら、メンバーの皆さん一人ひとりが、私にとっての一番です…』

『!!!!!!』

 その瞬間、メンバー達は例外なく全員萌え死んだ。
 一番…自分達一人ひとりが…彼女の一番好きな……
「…おっ、俺…もういつ死んでもいいっ!」
「俺も、この世に悔いはねぇ!」
 だーっと感涙にむせび泣きながら丸井とジャッカルが肩を叩き合っている隣では、切原が鼻を押さえつつ身体を震わせ、必死に己の中の衝動と戦っていた。
(うわ、やべ!! 赤目にならない分、血圧が〜〜〜!!)
「…本当に、おっそろしい女じゃのう…人生、なかなかないぜよ、こんな高揚感は」
「嘘偽りが無いと読めてしまうだけに…いけませんね、胸が少し…」
 仁王や柳生ですらも心の動揺を隠しきれずにいる中で、テニス部三強が互いに顔を見合わせた。
「…これでは、俺達は恋人など持てないだろうな…不思議な事に嫌では無いが」
「む…べ、別に必要など感じていなければ…無理に持つこともない」
 柳と真田が困ったという表情を浮かべながらも、まんざらではないという発言をしていると、幸村が無言のままですいっと前に歩き出した。
「精市?」
「…どうしたの? 行こうよ」
 振り返り、幸村がステージを指差して笑う。
「……お姫様が、お待ちかねみたいだからね」
 それから彼らが前に進みだすと、講堂にいた生徒達が徐々に男達の正体に気付いて騒ぎ出した。
「おい!! あれ、テニス部のレギュラーだ!!」
「ウソ! 本当に全員いる」
「おいおい、ステージに向かっていくって事は、もしかして…!!」
 ざわざわと更なる騒動が起こりつつあり、その騒動を引き起こしたレギュラー達は、遂にステージの前まで来ると、そのまま端の階段を使って、ステージへと上がってしまう。
 最早、講堂の中は嵐が訪れた様な騒ぎになり、この予想外な展開には司会者含めた関係者達も度肝を抜かれてしまった。
『お。お――――っと!! ここで信じられない事態がっ! 何と、メイドさんのリクエストに答える様に、テニス部レギュラー全員が、揃ってしまいました〜〜〜〜〜〜っ!!』
(皆さんっ!?)
 てっきりいないものと考えていた桜乃は、いきなり出て来た彼らに驚き…そして先程の発言を聞かれていた事実に気付いて頬を真っ赤にしてしまった。
(いやああぁぁ〜〜〜〜〜〜ん!!)
『ちょっと失礼! いや、まさか全員が上がってくるとは思いませんでしたが、これは一体…部長の幸村君っ』
 臨時インタビューという形で司会者からマイクを突き出された幸村は、にこりと笑って穏やかな口調で答えた。
「ふふ…綺麗なお姫様がお呼びとあったので、デリバリーに」

 キャ―――――――――――――ッ!!!

 一斉に上がる女性達の悲鳴。
 無論、桜乃も上げた…心の中で。
(な、何か…とんでもないコトが起こりそうな…でも、一人を選ばなければ多分大丈夫だと〜)
 何とかこのまま賞品はナシという事で落ち着きたい優勝者の前で、司会者が幸村達に彼女の言葉を改めて伝えた。
『いやしかし、残念ながら彼女は一人を決める事は出来ないという判断なので、そうなると賞品である「一番好きな人のキス」は差し上げるコトが…』
「俺達全員が一番…というコトだよね?」
『は? ええまぁ…』
「…立海の名を背負う以上、嘘をつくのは主義じゃないな」
『へ…』
 そう言いながら幸村がすっと司会者の前を通り過ぎ、桜乃の傍へと近寄ると、彼女の頬に手を掛けた。
「えっ!? あの、幸村さん…!?」
 慌てる少女に、幸村がそっと囁いた。
『大丈夫、じっとして…唇は、本当に一番好きな人の為にとっておくんだよ?』
「え…」

 ちゅっ…

 ステージの上…公衆の面前で、幸村は桜乃の頬に優しくキスをした。
 阿鼻叫喚
 その言葉に相応しい狂乱の叫び声が講堂を席巻し、固まってしまった司会者のマイクを使って幸村はきっぱりと宣言した。
『勝者に賞品をあげない訳にはいかない。約束通り、「一番」の俺達全員のキスをあげよう…みんな、宜しく』
 大胆な部長の発言に沸く人々の声の中、泣き叫ぶ悲鳴も聞こえてきた。
「うわ、やっちまったッスね〜…」
「精市…お前も恐ろしい奴だな…まぁ…唇でなければアメリカ式の挨拶と割り切りも出来るが」
「取り敢えず真田を支えてやらんか。失神しかけとる」
 メンバー達もあーあと言いながら、苦笑して部長の命に従う。
「はわ…み、皆さん、あの…その…」
「わりーな、おさげちゃん。マウス・トウ・マウスは、お楽しみにしとけよぃ」
「ま、俺のもう一つの母国流と思ってくれ」
 先ずは丸井が桜乃の右頬に幸村に倣ってキスをし、ジャッカルが左頬に続ける。
(きゃあああ〜〜〜〜〜〜〜!)
 もう聞こえている悲鳴が自分の心のものなのか、講堂中のものなのかも分からないまま、桜乃は男達のキスを受けた。
「では、謹んで…失礼しますよ、レディー」
「余興…と言うのは不謹慎かの。ま、俺が余興でも誰にでもこんな事はせんことは知っておけよ?」
 柳生は流石に紳士らしく、桜乃の手を取ってその甲に口付け、仁王はいつも可愛がる時に触れている額に、詐欺師の様に優しく唇を触れさせる。
 美少女コンテスト…の筈だったが、最早、講堂内の人々の興味は別のところに移ってしまっていた。
 立海大附属中学の中でもダントツ人気であるテニス部レギュラー全員の、キスの進呈。
 歓声や悲鳴…写メの音やらが途切れることも無く続いていく中で、二年生エースが桜乃の鼻の頭にキスをする。
「ふあ…」
「っへへ…キンチョーしすぎだってアンタ…ま、俺も似たようなもんだけどな」
 けど悪い気分じゃないな、と笑い、ウィンクまでしてみせる、なかなかの大物だ。
 そして三強の内、残った副部長と参謀…
「し、しかしやはりこういう事は、公衆の面前でやるものでは…!」
「止むを得まい…竜崎に恥をかかせるわけにもいかんしな」
「う…っ」
「竜崎が外人だと思えば少しは気も楽になるぞ…俺はもう覚悟を決めた」
「〜〜〜〜」
 流石にストイック且つ純情な真田は狼狽振りも甚だしかったが、柳に諭されて言葉を詰まらせてしまう。
 こういう時に限って愛用の帽子も着用していないし、余計な視線を逸らす手段も無い。
「あ、あの、無理しないで下さい…皆さんが嫌がることをさせる訳には…」
「っ!…い、嫌ではない! ただ、この状況が少し気に入らんだけだ。落ち着けという方がどうかしている…」
 別に彼女が無理強いしている訳でもないのに、気を遣わせてどうする!
 真田は己を叱咤して、遂に彼自身も覚悟を決めた。
「す…まんが、目を閉じていてくれ」
「では、賞品の進呈だ。まぁ、相手がお前で良かったというべきか」
 そして最後に、真田と柳がそれぞれ彼女の両頬に口付けをする。
 全員…進呈終了……
 全ては終わったと、メンバー達が桜乃と一緒にステージ裏へと向かった。
 早くしないと女子生徒達の襲撃を受けかねない、なるべく急がなければ…
「じゃあ、俺達はこれで失礼するよ。なかなか面白い企画だったけど…」
 最後に、幸村は司会者に向かって意味深な笑みを浮かべた。
「もう俺達は知らないからね…」


「何じゃ? じゃあ本当に成り行きで決まったのか」
「そうなんですよ〜…てっきり荷物運びでもやらされるのかと」
「で、連れて行かれた先がコンテストのステージとは…そりゃあ驚くよな」
 コンテストの会場から出て行った後、幸村達は自分達の喫茶店に戻った…訳ではなく、そのままトンズラを決め込んでいた。
 向こうでは、前にも増して客が急増してしまったらしい喫茶店にいる部員達に幸村が携帯で細かく指示を出している。
「うん…多分、俺達がいないと分かったら、また客足も落ち着くと思うから…今帰ったらほぼ間違いなく店が破壊されるだろうからね。片付けの時間には戻るよ」
 相変わらず涼やかな顔での物騒な発言が得意な人だ。
 そんな事を言っている彼を含めた全員は、現在は部室内へと退避している状況。
「……」
 一通りの説明が終わった後で桜乃は暫し沈黙し、今更ながらに目の前の男達からキスを受けた事実を思い出して真っ赤になった顔を覆った。
「うう…今になってもっと恥ずかしくなってきました」
「ふふ…本当に可愛いね、俺達のお姫様は」
「!!」
「まぁ、君が本当に好きな人を見つけるまでは、俺達がお兄さん代わりになって守ってあげるつもりだけど…たまにはこういうのもいいね、楽しかったよ」
「〜〜〜〜」
 余裕の笑みでそんな事を言う幸村に、桜乃はぽっぽと火照る顔を押さえて声もなく俯いてしまった。
 本当に、桜乃に関しては見境無しに保護欲を爆発させる若者である。
 まぁ、他の誰も彼の態度を批判しようとしないところを見ると、爆発はさせてはいないが同じ様な感情を抱いているという事だろう。
「…しかし、とんだ災難だったのう竜崎…お前さん、もう二度とここではおさげを解いたらダメじゃよ?」
「女子がまた何処でどう騒ぎだすか分かりませんからね…」
 これだけおさげの時とそれを解いた時の落差が激しいなら、同一人物と気付く人間はそうはいない…しかし今回はそれが幸いとなるだろう。
「今からもう編んでおいた方がいいんじゃないか?」
「あと、向こうに置いてた服、こっそり持って来させとこう、電話しといてやるよぃ」
「ついでに俺達の服も何とかなんないッスかね…」
「どうせどんな格好だろうと暫く騒がれるんだ、やるだけ面倒が増えるだけだぞ」
 切原に柳が無情のアドバイスをする脇で、真田がまだ無言の少女を気遣って声を掛けた。
「…大丈夫か、竜崎…」
「……ダメかもしれません」
「え?」
「…もしかしたら私…恋人出来ないかも……こんな素敵な『お兄さん』達がいたら、もう十分…」
(……気付くのが遅すぎたのう…竜崎)
 お前さん、もうとっくに外堀も内堀も埋められとるんじゃよ……掘り返すのは結構厄介じゃぞ…
 そう思いつつも、仁王は告げることはなく、面白そうに笑うだけだった。
「…にしても、またこんなコンテストが開かれたら厄介だぞ。二匹目のドジョウを狙う輩がいないとも限らん」
「うん、大丈夫…もう無いよ、多分」
 真田の実に嫌そうな言葉には、幸村が何故か爽やかな声で断言した。


 その後、幸村の予言の通りコンテストは二度と開かれることは無かった。
 立海一のイケメン集団の貴重なキスをよりによって全員分、一人の飛び入りの少女に進呈することになったイベントに在校生女子のクレームが殺到し、生徒会でもかなり大きな事態になってしまったのだ。
 もしかしたら、これは幸村のささやかな復讐だったのかもしれない。
 可愛い妹分を勝手に連れ出し、更には公衆の面前でキスをさせようとした、不躾な開催者達への…






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