「おお、いたいた、こっちだよい」
「どうしたんだ、真田、いきなり走り出して」
赤い髪の若者と、浅黒い肌のスキンヘッドの若者に続いて、ぞろぞろと後ろから付いてきているのは、真田と同じテニス部のレギュラー陣だった。
「…! あれ、竜崎さんじゃないか」
「何やらあったようですね」
真田達の様子に気づいたらしい部長の幸村と、紳士と名高い柳生が言葉を交わし合っている脇では、銀髪の詐欺師が無言で向こうの二人の様子を眺めている。
「お、も、い〜〜〜!! 兎に角行きましょうよ、ねぇ!!」
そんな先輩の後ろでは、真田が駆け出した時に投げ捨てたと思しき鞄など一式を、後輩の切原が自分の分と合わせて抱え持ち、悲鳴を上げていた。
切原に言われずとも、ここは急ぐべきところであるという事はすぐに分かる。
自然と若者達の足の動きも速まり、彼らはあっという間に真田のすぐ後ろへと到着すると共に、桜乃の力無い様子を見て激しく動揺した。
実は青学の中でもそれを知る者は殆どいないのだが、桜乃は立海の面々にとっては可愛い妹の様な存在であり、普段なかなか会えない事も相俟って、会った時には例外なく超がつくほどに猫可愛がりされている。
そんな彼らが、力なく真田の腕の中におさまっている少女の姿を目の当たりにしたのだから、うろたえない筈はなかった。
「竜崎さん!?」
「うわ! おさげちゃん、顔真っ青じゃん!!」
「む、もしや熱中症か?」
幸村や柳が声を掛けたのに対し、真田は手の甲に伝わってくる桜乃の皮膚の冷たさに首を傾げた。
「可能性は否定出来んが…その割には皮膚が冷たい。汗による気化熱という訳でもなさそうなのだが…」
「ふむ…」
真田の台詞に、柳が何度も頷きながら少女の様子について様々な仮説を立てている脇では、柳生が愛用の綿のハンカチを取り出して、彼女の額にうっすらと滲んでいた汗を拭きとってやっていた。
「大丈夫ですか? 竜崎さん、ご気分は」
「…すみません。今は大丈夫です、かなり楽になりましたから」
嘘ではない。
確かに、真田が傍に来てくれてからは、あの不吉な悪寒はすっかり身体から抜け出ていた。
それでもまだ完全回復とまではいかないが、楽になったというのは間違いないので、桜乃はそう返事を返した。
「………ところで」
不意に、部長の幸村が朗らかな顔で真田の背後から優しく囁いた。
「竜崎さんのほっぺたにまだ手を当てているのは、何か意味でもあるの? 弦一郎」
「!!!!」
相手に言われて初めて気づいたらしい真田は、瞬時にばばっと手を引き、更にそれを背中にまで回したが、その表情が固まっている。
どうやら他意はなく、無意識の行動だったらしいが……無意識の行動だからこそ、それが本人の望みや願望であると知らしめることもあるのだ。
「〜〜〜〜〜」
背を向けているが、おそらく心の中ではだらだらと冷や汗を流しているだろう堅物に、後輩の切原が冷やかしっぽく言った。
「でも、真田副部長、よく分かったッスね〜〜〜〜。あんなに遠くだったのに〜」
「む…そ、それは別に…只の偶然で…」
へ〜〜〜〜〜え?
周囲に漂う微妙な空気…
元々が隠し事が苦手な実直な若者であった為に、その心の中や意中の人については仲間達にはとっくにダダ漏れの様だ。
そうしている内に、徐々に身体に力も戻ってきた桜乃が、自分からも上体を起こして立海の面々を見渡した。
「みなさん、は…どうして?」
ここにいるのか?という疑問を察して、ジャッカルが笑いながら言った。
「俺らはちょいと練習試合の遠征さ、まぁ都内だし午後からだったから今から向かうところだったんだが…居合わせたのはラッキーだったな」
彼の言うラッキーとは当然、会えた「自分達」ではなく、かろうじて保護された「桜乃」の方だ。
ジャッカルの言うとおり、ここに立海のメンバーがいなければ、桜乃は支えられることもなく、この道端で倒れて衆目に晒されることになっただろう。
ついていた…と言っていいのか、しかし、
「まぁ!…す、みません、知らずに御引き留めして」
「いいから動くなって! まだフラフラじゃんか、アンタ!」
慌てた様子で真田の腕から離れようとした少女を、切原が引き留めて柳へと振り返った。
「柳先輩、コイツ、やっぱ病院連れて行った方がいいんじゃないスか?」
「そうだな…若干は回復している様だが、見た目だけで判断するのは危険だ。念の為に最寄りの病院に連れて行った方がいい」
参謀である柳の意見には異を唱えはしなかったものの、そこで柳生が気になる事実を述べた。
「しかし、これから試合を行う予定の方々も待っていらっしゃいます。あまりこちらの都合で待たせる事も避けるべきでしょう。何人かは、このまま向かった方が宜しいのでは?」
「そうだね」
相手に頷いた後、全員を取り仕切る部長の幸村は、ぐるんと彼らを見回してから、その視線を徐に真田へと定め、ぴたっと相手を指差した。
「じゃあ丁度いいや、弦一郎、行ってきて」
「は!?」
「だってさ」
鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をした親友に、幸村はしれっと説明してのける。
「ジャッカルと丸井は第一試合だし、仁王と柳生は第二試合だろう? 赤也は第三試合で少しはゆとりがあるかもだけど、それに油断して遅刻する恐れもあるし、病院で先生に上手く説明出来るかも疑問だし」
「さらっと何気にヒドい事言われてません? 俺」
「第四は蓮二で、最後が君だ。君なら彼女を最後まで面倒見られるだろうし、時間的にも問題ない、そんな訳で決定ね」
突っ込んだ後輩の言葉はまるっと無視で、幸村は真田に桜乃を病院に連れて行くように念押ししたが、逆に真田が動揺を隠せずに反論する。
「い、いやしかし…! 病人の付き添いというなら蓮二の方が…」
「俺はデータの収集に忙しい、よって本案は却下」
まるで幸村と示し合わせたかの様に、柳が早々に真田の申し出を突っぱねる。
「ではそもそも試合に出る予定のない精市が…」
「部長で責任者の俺が最初からその場にいなきゃ様にならないじゃない。部長がお飾りの仕事じゃないことは、一時的にも代理を務めていた君もよく知っているだろう?」
「ぐ…」
それでも何となく引き受け兼ねている様な姿の真田に、当人の桜乃が遠慮がちに声を掛けた。
「あの…私、一人で大丈夫です、病院に行かなくても、もう少しで家ですし…」
「心配しなさんな、いつも思うことじゃが、お前さんは自分の事も大切にせんとな…優しすぎるんもそれはそれで問題なんじゃよ」
さわ、と桜乃の頭を撫でて仁王が優しく笑う。
普段は笑う時にも何処か皮肉めいた匂いを漂わせる事が多い詐欺師も、この少女の前では何となくその匂いが薄くなる。
「でも…ご迷惑が」
「いやいやー、単に照れとるだけじゃろアレは…まぁウチの部長がすぐに片つけてくれる筈じゃけ」
「…?」
その仁王の発言通り、彼らの目の前で、歯切れの悪い態度の真田に業を煮やした幸村が、まだ優しい笑顔を浮かべたまま、がしりと相手の肩を掴んで顔を寄せた。
「この俺達が折角お膳立てしてあげるって言ってるのに、いつまでぐだぐだ下らない能書き垂れてんの?」
「!!」
(出たっ! 暗黒面!!)
(まぁ真田に任せといたらいつまでも停滞前線だからなぁ…)
丸井とジャッカルが何を言うでもなく真田の敗北を確認し、それから二分後には彼らの見立て通り、彼が桜乃を病院へと引率することで話は収まっていた。
「なに? 幽霊?」
病院で診察を受け、熱中症は否定されたものの念の為にと点滴を受けている桜乃の枕元で、真田は椅子に腰かけながら彼女の話を聞いていた。
急患に割り当てられているらしいこの白い部屋の中には、今は彼ら二人しかいない。
先程までは看護士もいたのだが、『何かあれば呼んで下さい』という言葉を残して、他の仕事に行ってしまったのだ。
「はぁ…気のせいかもしれないんですけど…何となく気になって」
「幽霊とは、また非科学的なことを…そういうのは大抵疲れての幻覚か、見間違いに過ぎんだろう」
いかにもストイックで現実主義な返答だったが、それもまた一理ある。
現代社会に於いては、確かに幽霊という存在が科学的に証明された訳ではないし、自分も自信をもってあれがそうだったと言える様な確証もない。
ただの疲れによる体調不良とそれに伴う幻覚だったと言われたら、それまでなのだ。
「そう、ですよね…きっと」
「…」
自嘲気味な笑みを浮かべ、布団を口元に引き上げながら笑って答えた少女に、真田が口を閉ざす。
馬鹿が
心の中で自身を叱咤する声が聞こえた。
何故、お前はそうなのだと。
何故弱っている相手に、否定の台詞しか言えないのか…しかもよりにもよって彼女に。
ここで必要なのは、幽霊がいるかいないかという論議ではなく、彼女の身体を、心を労わる言葉だろう。
本当に馬鹿だ、そんなだから折角の機会をお前は…
「…でも」
「?」
ふと、桜乃の声に、俯けていた顔を上げると、その先には何故か嬉しそうに笑っている少女の顔があった。
「ただの疲れだったかもしれませんけど…あの時、真田さんが私を支えてくれた時…それまで感じていた寒さとかが、嘘みたいに消えたんです……凄く楽になって…きっと真田さんが守ってくれたんだなって…」
「お、俺は…別にそんな事は、何も…」
「でも、助けて下さったことは事実ですから…有難うございました」
「……」
素直に礼を述べる桜乃の笑顔を見つめていた真田は、その時、酷く複雑な顔をしていた。
羨望と喜びと困惑と…どれが今の自分の抱く感情なのかすら分からない。
まるで、決して開けることが適わない硬質なガラスの箱に入れられたままの至高の宝玉を手にした者の様に…傍にあるのに触れることが出来ないもどかしさを感じながら、彼は必死に言葉を探した。
自分には幽霊を追い払ったとか、そういう自覚は今もない。
しかし…彼女がそういう存在を信じ、それを恐れるのであれば、信じる信じないに関わらず、守ってやりたいと思う。
「…そうか…俺には幽霊などのことはよく分からんが…もしまたそんなものがお前の傍に寄る様なことがあればすぐに言え。悪霊払いの様な真似ごとは出来んが……その…」
「…?」
「…そ、傍にいてやることぐらいは出来る」
「!…」
折角の台詞だったのに、やはり若者の視線は脇へと逸らされたままだった。
しかし精一杯の気持ちは十分に桜乃にも伝わったのか、そんな相手に少女は気を悪くすることもなく、笑顔のままに頷いた。
「はい、お願いします」
「う、うむ」
そこで会話が一旦途切れたところで、はた、と桜乃がある事に気付いた。
「真田さん、そろそろ試合に向かわれた方が…」
「む…ああ、そうだな」
正直、名残惜しいところだが、自分が出る筈の試合を放棄する訳にもいかない。
自分の仲間達は贔屓目を抜きにしてもかなりの実力者なので、予想よりも早く試合を終わらせてしまっている事も十分に考えられる。
そろそろ向かった方がいいだろうと判断し、真田が椅子から立ち上がったところで、今一度桜乃の方を見下ろした。
「…」
「……大丈夫です、点滴が終わったら一人で帰れます。無理はしません」
にこりと笑ってはいたが、その直前に心細そうな表情を浮かべたのを、真田の眼力は見逃さなかった。
もしかしたら、一人きりになることで、また幽霊などの類に脅かされてしまうのかもしれない。
相手が目に見える相手ではないのが実に厄介だ…人間ならば実力を行使してでも寄らせる事は許さないのに。
しかし、自分もここを離れざるをえない…いない自分にどれだけの事が出来るというのか。
暫く黙していた真田は、やがて右手をあげて自分の被っていた黒の帽子を脱ぐと、それをそのまま桜乃の枕元へと置いた。
「?…真田さん?」
「俺は行かねばならんが…お守り代わりだ、これを置いていく」
けろっとした口調の男に、逆に桜乃の方が慌てて引き止めた。
「ええ!? で、でも、これって確か真田さんのお祖父様から頂いた、大切な…」
「大切な帽子だ、だから、俺が預けられると認めた奴にしか貸さん」
「…っ」
「返すのはいつでもいい。お前の気が、これで少しでも楽になるのなら」
「…」
胸元に、その帽子を大事そうにぎゅ、と抱えた桜乃の姿が無性に愛しく思え、真田は相手を抱きしめたい欲望にかられる。
何とか未然に防いだが全てを耐えられた訳ではなく、彼の手は無意識の内に桜乃の頭へと伸びると、さわさわと優しく撫でていた。
抱擁と比較すると随分と可愛らしい譲歩だったが、それにしてもこの純情な若者にとっては巨大な進歩だ。
「…っ、で、ではな!」
途中で自分の行為に気付いたらしい真田は、いつもの様に帽子の陰で誤魔化せなくなってしまった頬の微かな紅潮を隠すように、急ぎ足で部屋を出て行った。
最後の最後はかなり素っ気ない態度だったが、それが本心だと言っても今更誰も信じないだろう。
「…」
彼が去った後になっても、桜乃はまだずっと相手の帽子を見つめていた。
別に何の変哲もない、普通の帽子。
なのに、彼が長年愛用しているものだというだけで、何故か手にしているだけで心強さを感じる。
(…不思議)
本当に、不思議な人…どうしてこんなに安心出来るのかな…
何だかこのままだと、私、いつでもあの人の傍にいたくなってしまう様な気がする…それって、迷惑、かな?
そして、無事に練習試合も立海の完勝で終了した夕刻…
「で、竜崎に帽子を預けてきたって訳ッスか」
「何か文句でもあるか?」
「俺らには絶対貸してくんない癖に」
「借りて何をする気だ」
切原や丸井のささやかな攻撃をさらっと流しながら帰路についている真田の後姿を眺めながら、ジャッカルがこそりと柳と言葉を交わす。
「ちっとは進展あったのかな…」
「あったとしても、まだ手も繋げないレベルなのは間違いないな」
そんな二人の会話に、幸村も苦笑を交えながら割り入ってきた。
「複雑な心境だけど、弦一郎なら間違いはないだろうからね…それにあの奥手じゃあ、次にチャンスが来るのはいつになる事か…これで少しは女性に免疫が出来てくれたらいいけど…」
桜乃のことは可愛いに違いはないが、彼女の心が真田に向いているのだと分かっている以上、それを認めない訳にはいかない。
悔しいが、真田弦一郎という男は彼女を任せるに足りる男だ、そうでなければ決して手など貸したりはしない。
テニスでは宿敵でもある、深い友情で結ばれている男達が一人の男の恋路を見守ろうとしている中、ふとその真田の携帯が鳴った。
「? 電話かい?」
「ああ…もしもし?」
幸村に答え、続けて携帯の向こうにいる相手に呼び掛けた若者の身体が、いきなり硬直した。
「り…竜崎、か? …あ、いや、その…礼には及ばん」
相変わらずの反応の露骨さに周囲が半ば呆れている中、それにも気づく様子はなく彼は桜乃との会話を続けた。
「ああ…帽子は言った通り返すのはいつでも…え? 今度の日曜…映画?」
向こうから漏れ聞こえる情報源に、柳のみならず他の全レギュラー達も聞き耳を立てている。
『おお〜、おさげちゃんも意外と積極的』
『渡りに船ってやつだな』
これはもう向こうの誘いに乗るだけでいいんだから楽勝だろう…
丸井とジャッカルがそんな事を考えている中で真田が相手に返した答えは…
「その…俺は確かに暇だが…付き合っていない男女が共に行動するのは…」
『アンタ、いつの生まれだよ!!』
皆が心の中で突っ込みを入れる中、
ぶっちぃっ!!
嫌な音が聞こえたのは、幸村の頭からだった。
「だから君はいつまでたってもダメなんだよこのヘタレ!! デートの誘いぐらいさっさと引き受けろーっ!!!」
珍しく乱暴な発言をしながら思い切り真田に後ろから蹴りをかまし、前につんのめった相手をそのままに、彼は拍子に奪い取った携帯で桜乃に代返した。
「あ、もしもし竜崎さん? うん、弦一郎は当日君に貸し出すから、好きなように扱ってくれていいよ。もう荷物持ちでもボディーガードでも、何でもやらせちゃって」
『は、はぁ…』
「すげぇ!! 当人同士の話の筈が、主導権だけ部長持ちだ!」
「哀れな…」
ぐっと拳を握りしめて妙な感動をしている切原の隣では、真田の立場を思った柳生が心底同情していたが、そんな紳士がふと沈黙を守る詐欺師の様子に気を向けた。
「仁王君…今日はやけに大人しいですね。そう言えば昼に竜崎さんを保護した時から静かでしたが…何か?」
「いや…」
問われた銀髪の男は、じっと真田を見守っている。
その視線を確認し、柳生が再度真田へと目を移し、そしてまた相棒へとそれを戻した時、彼は微妙な相違を見つけた。
違う。
相棒は真田の方を向いてはいるが、その視線は彼ではなく、彼の頭上に向けられている。
何もない筈の虚空に。
どうして…
疑問に思う紳士がそれを言葉にする前に、仁王が久しぶりに視線を他へと逸らしながらぼそりと呟いた。
「またとんでもないモン背負いおって…フツーなら半日でくたばるレベルじゃ」
「え?」
「まぁあの子にとってはラッキーじゃったなぁ…真田が身代わりになってくれたんじゃけ。どっちもツイてるってコトでお後が宜しいようで」
「…」
『何の』身代わりになったか、ということに思い至った時、柳生は暫し無言になり、軽く眼鏡を押し上げた。
「……つかぬ事を窺いますが、それは目に見えないどなたかの事について仰っているのですか?」
「まぁのー」
昼のあの騒動の時、この男は何かを見たのだろうか…例えば、桜乃に取り憑いていたナニかが真田へと移る場面、とか…想像に過ぎないし、証明するものも何もないが。
「…竜崎さんと違って、真田君は一切変わりがないように見えますが」
「何を今更…俺が数えとるだけでも、アイツはもう五十回以上呪い殺されとる…のに、あんだけピンピンしとるんじゃから、もう心配するんも馬鹿らしいぜよ」
「…」
それは幽霊ですら手を焼く程の剛毅だという事か…それとも異常にすら気付かない程の鈍感という事か…
「まー三日もすりゃあ向こうさんも飽きて離れるじゃろ…って言うより、朝四時からのアイツの健全極まりない生活についていけずに脱落するってだけじゃがな」
「…」
女子との健全な付き合いにはあれだけ四苦八苦しているというのに、目に見えない厄介な相手に関しては意に介してもいない内に撃退してしまうのか…
「何と申し上げたら良いのやら…」
「ご愁傷様…ナリ」
紳士が言葉を失い、詐欺師がぱん、と両手を合わせて拝んでいる向こうでは、必死に携帯の向こうに何かを弁解している若者の姿があった……
了
前へ
真田main編トップへ
サイトトップへ