翌日…
「んもう、お兄ちゃんったら…幾ら何でもあの勘違いはないわよ」
 学校からの帰り道で、桜乃は昨日の兄の粗相を思い出して一人ささやかな愚痴をこぼしていた。
 あれからの兄の謝罪っぷりも相当なものだったので、既に怒りは消えているのだが、何となくまだすっきりしない。
「そりゃあ確かに、「三毛ちゃんが」って最初に言ってなかったのは悪かったけど、それにしたって早とちり過ぎるわ、もう…」
 まぁ今更蒸し返す気はないし、お詫びとして今度の練習試合には来てもいいって許可貰ったし…と改めて気を取り直す。
 練習試合、というのは言うまでもなくテニスのそれである。
 本来、選手の身内に当たる桜乃は、普段から練習試合の応援に赴いても全く問題ない筈なのだが、それには兄の真田があまりいい顔をしなかった。
 何故なら…今現在の最大の理由は、そこには桜乃を狙う輩が少なくとも七人存在しているからだ。
 言わずと知れた、彼と同じくレギュラーを張る仲間達である。
 非常に個性の強い男達だが、悪人ではない…のだが、彼らが揃って妹の桜乃を気に入っているのが、真田にとってはかなり大きなストレスだった。
 下手に彼らに近づけるとどんなちょっかいをかけてくるか分からないし、彼らの活躍の現場を見せると桜乃が過剰に好意を寄せてしまうかも分からない。
 だから、真田は基本的に練習試合などがある日には、身内…特に桜乃は絶対に会場に来させないようにしているのが常だった。
 しかも恐ろしいことにこの習慣、実はその七人と知り合う以前の、彼らが小学生の頃から続いているのだ。
 そんな習慣だったが、流石に今回は妹の怒りを抑える為に、已む無く兄が試合の見学を許可したらしい。
 あの堅物男がどんなに桜乃を大事にしているか、そして彼女には頭が上がらないか、この一件からも分かろうというものである。
「折角試合を見られるんだから、お弁当も腕によりをかけて…皆さんの分も作っていこうかな…」
 そして、何だかんだと言ってもちゃっかりと兄の当日のお弁当を張り切って作ろうと考えている桜乃も、かなりのお兄ちゃんっ子なのだった。
「ただい…あら?」
 そして彼女が家に到着して何気なく玄関から庭の方へと目を向けると…
「きゃ、またあの子来てる〜」
 昨日と同じ様に、今日もまたあの白と茶色のタヌキ猫が、三毛と一緒にじゃれて遊んでいた。
 桜乃は玄関の扉を開けるより先に、ゆっくりとそこへと足を向けて二匹の傍に寄った。
「いらっしゃい、猫ちゃん。今日も遊びに来たの?」
「ほあら〜」
 相変わらず特徴的な鳴き方をする猫は、桜乃が寄っても逃げようとせずきょろっと大きな瞳をこちらへと向けた。
「…あら?」
 ふと、桜乃は相手と三毛の毛並みが少々汚れていることに気がついた。
「あらら…軒下にでも潜り込んで遊んだのかな…二匹ともワイルドになっちゃって」
 よいしょっと二匹を同時に抱き上げた桜乃は、それからじっと沈黙を守り…
「…ここはやっぱりアレでしょう」
と、密かに呟いていた。


 三十分後…
「はいはい、いい子でした〜」
「ほあら〜〜〜」
「にゃあ〜〜」
 猫達は、揃って浴室でシャンプーの刑に処せられ、濡れた身体をドライヤーで乾かされている真っ最中だった。
 桜乃も、最初は二匹を洗うだけのつもりが派手な抵抗にあって水浸しになってしまい、結局一緒に入浴する羽目になってしまっていた。
 まぁ、モノはついでというヤツだろう。
「毛が長いからお手入れも大変ね。はい、きれいきれい」
 ドライヤーで乾かしてあげた後、櫛で毛並みを整えてやると、その客猫は非常に高貴な姿へと変身した。
 やはりこの子は、血統書持ちなのかもしれない…となると何処かの飼い猫なのはほぼ間違いない。
「うーん…別に飢えてる感じもしないし、躾もしっかりされているみたいだし…ねぇ、一体何処から来たのかな?」
 そう尋ねながら相手を抱き上げ、よしよしと撫でてやっている時だった。
『……ピンー!』
「…?」
 何処かから、誰かが何かを呼んでいる声が聞こえてきたと同時に、ぴくんと抱いている猫の耳が激しく動いた。
 何かしら、と思っている間に、再び声が外から聞こえてくる。
『カルピン―ッ!!』
「ほあら〜」
 今まで大人しくしていたタヌキ猫が、急に焦った様子で四肢をじたばたさせ始めるのを見て、桜乃がぴーんっと閃いた。
「もしかして、カルピンってあなたのこと?」
 じゃあ、外で呼んでいるのは、この子のご主人様なのかしら…
 そのまま手放すのも不安なので、ここはもし相手が飼い主だったら、挨拶ぐらいはしておこうかと、桜乃は玄関から猫を抱いたまま外に出た。
「えーと…あ、あの人…」
 外の道路に出て見回すと、少し離れたところに一人の少年が見えた。
 白い帽子を被り、テニスバッグを抱えている…同年代ぐらいの少年だ。
「…あ」
 相手は最初桜乃に気付き、彼女の手の中に抱かれている猫の姿を見ると、慌てた様子で駆け寄って来た。
「カルピン!!」
「あ…やっぱり飼い主さんだったんだ」
 私と同じ年頃かな…と思っている間に、相手はすぐ傍まで来たところで猫の無事を確認した後、桜乃へと目を向けた。
 大きな目の所為で見た目から幼そうに見えるが、瞳の中には強い光が宿っている。
「ごめん、ソイツ、ウチの猫なんだ」
「カルピンちゃんって言うの? 凄く良い子でしたよ、はいどうぞ」
 びろん…と伸びた身体を晒して、カルピンが桜乃から相手の少年へと手渡しされる。
「良かった…お前、また逃げ出して…あれ?」
 逃げ出して、という事はきっと家の中での飼い猫なのだろう。
 主人が留守の間に、どうにかして外へと出て、ウチに遊びに来ていたのか…
 そんな事を考えていた桜乃の前で、少年は不思議そうにカルピンを抱き抱えて目線へと持って行きながら首を傾げた。
「…何か、毛並みが艶々してる…」
「あ、さっきウチの飼い猫と一緒に遊んで汚れていたから洗っちゃいました。すっごく綺麗な猫ちゃんですね」
「……あ、ありがと」
 自分の飼い猫を褒められて悪い気がする人間などいない…しかも手間隙かけて洗ってくれたとなると感謝するのが筋である。
 その子も、カルピンを褒められて、多少ばつが悪そうにしながらもしっかりと桜乃に礼を述べ…改めて彼女を見遣った。
「アンタも猫飼ってるの?」
「ええ、ウチは短毛の雑種ですけど…可愛いですよ」
「ふーん……可愛いなら雑種でも関係ないじゃない」
「! そうですね」
 少年が、たまにいるペットの血統を何より重んじる人種ではないことに、桜乃は内心安堵していた。
 もしそういう人であった場合、雑種の猫と遊ばせただけで非難を受けることもあるからだ。
 飼い主同士の挨拶が済んだところで、桜乃は相手のバッグに目を向けて微笑んだ。
「あ、テニスやるんですか?」
「まぁね……アンタも?」
「私は正直、初心者もいいところです。でも私のお兄ちゃんは凄く強いのよ」
 自慢の兄を思い出し、ふふっと桜乃が笑うと、その少年が一瞬、不敵な笑みを浮かべた。
「…へぇ、強いんだ」
「お兄ちゃんは中学三年生なの、貴方は?」
「一年…けど、テニスは年でやるワケじゃないでしょ。年下でも強い方が勝つんじゃないの?」
(うわぁ、物凄い自信家だなぁ)
 内心驚きながら、桜乃は確かに相手の言う事にも一理あると頷いた。
 そう言えば、自分の兄も幼い頃から年上の相手をばったばったとなぎ倒していってたっけ…
「そうね、貴方の言う通りかも。お兄ちゃんもそうだったし」
「……」
 随分とこの子、自分の兄を評価してるんだな…と思いながら、その少年は少しだけ失礼な事を考えていた。
(まぁ身内を褒めてる場合って、大体は贔屓目で実際は大した事ないんだよね……気持ちは分かるけどさ)
 そこまで思ったところで、少年は屈託なく微笑んでいる桜乃と視線が合い…そのままそれを逸らした。
(赤の他人に疑いもしないでこんなに能天気に笑ってるって…よっぽど家では甘やかされて育ってるのかな。ま、そんな『お兄ちゃん』なら、やっぱり大した事なさそう)
 けど、むすっとした女よりは全然いいかもね…とこっそりと付け加えた後で、少年はカルピンを抱き直してから暇を告げた。
「じゃあ俺、行くから。泊めてくれている所に戻らないと」
「あ、やっぱり地元の方じゃなかったんですか」
「ちょっとね、テニスの関係で知り合いの家に寄せてもらってるんだ…じゃあね、カルピン洗ってくれてアリガト」
「いいえー、お気をつけて」
 ばいばい、と手を振って、相手が立ち去るのを見届けた後…
「………あーっ! 名前訊くの忘れてたぁ!!」
 相変わらずのうっかりさんであることを思い出した桜乃だった…



 そして、真田のテニスの練習試合当日…
「では、俺はそろそろ出かけるぞ」
「うん、私もお弁当作ったらすぐに追いかけるから。行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
「…本当に来るのか?」
「勿論です!」
「…むぅ、やむをえんな。あまり目立たない様にしろ」
 朝の一時、真田は結局来る気満々の妹を止める手立てもなく、渋々とそれを許可していた。
 元が自分の早とちりが原因であるだけに、何も言えない。
 そんな兄の苦悩を他所に、妹は先程から沢山のおかず作りに余念がない。
「あ、今日は良い天気だから、三毛ちゃんも連れて行くね。ケージに入れてたら大丈夫でしょ?」
「ああ、邪魔さえしなければ問題はないぞ」
「良かった」
 そんな会話を交わした後に、真田は一足早く家を出て試合会場へと向かった。
「今日の相手は青学、か……あの一年は来るのだろうな、やはり」

 そんな兄に少し遅れて、桜乃が家を出たのは彼が出た三十分後だった。
 しかし、相手はいつも予定より早く出るのが習慣なので、試合には十分に間に合う計算である。
「えーと、お弁当良し、三毛ちゃんよし、火の元、戸締りよし…うん! 完璧!」
 そして大きな荷物と三毛の入ったケージを持った桜乃が向かったのは、家から一番近くにあるバス乗り場だった。
 幸いこの系統のバスに乗ったら、後は会場になっている場所前まで運んでくれるのだ。
 普段からよく迷子になる妹を心配している真田も、これに乗るのなら問題はなかろうと判断したのである。
 バス停で待って数分後、目的のバスが到着し、桜乃は中へと乗り込んだ。
(…あ、奥の席が空いてる)
 ラッキーと思いながら、よいしょよいしょ…と荷物を持って奥へと移動し、一人分空いていた二人用の座席…の隣を見ると、
「…あ」
「まぁ、昨日の…」
 どの程度かは分からないし計算方法も不明だが、それはきっとかなりの確率の低さだった筈だ。
 そこに座っているのは、昨日会った、カルピンの飼い主である少年だった。
「隣、いいですか?」
「うん」
 断り、そこにすとんと腰を降ろしたところで、桜乃は相手もテニスバッグとペット用のケージを抱いている事に気付いた。
「カルピンちゃんも一緒にお出かけ?」
「今日の用事が済んだら、そのまま東京に帰るからね」
「そうなんですか、東京の人…あ、そうだ」
「?」
 思い出した様に笑う少女に相手が首を傾げる。
「あの、昨日は自己紹介もしないで失礼しました。私、桜乃と言います、真田桜乃です」
「ああ…俺は越前リョーマ」
「越前さんですか、宜しく」
 にこ、と微笑んでくる桜乃に、越前は軽く頷いてふと尋ねた。
「ん…アンタも中学生?」
「はい、一年です」
「ふーん…同じなんだ。じゃあ、『さん』っていうのやめない?」
「え?」
「…何か余所余所しくて嫌なんだよね、その呼び方」
「え、そうですか…? じゃあ…ええと、越前君でどうですか?」
 同級生になるんだし、と桜乃が提案したが、相手はまだ調子を狂わされている様子だ。
「アンタ丁寧すぎ…いつもそうなの?」
「え、えーと…会ったばかりの人にはそうかも…相手には失礼がないようにって言われてきたから…」
「そう…躾ってヤツかな、まぁいいけど」
 そして走るバスの中で、二人は更に話しこんでいった。
 越前は確かに物事の考え方、言い方が、普通の日本人のそれとは異なる時があったが、それも相手が幼少時からアメリカで暮らしている事に由るものである事を知り、桜乃は納得した。
 誤解されることもあるかもしれないけど根は良い人みたい…獣に好かれるって、性根が優しい人だって聞いたことあるし…と桜乃が思っていたところで、丁度良く相手が猫について話を振ってきた。
「…そっちに入ってるのが、アンタの猫?」
「はい、三毛ちゃんですよ」
「ふぅん…凄い荷物だけど、これから何かあるの?」
「テニスの試合を見に行くんですよ。応援に」
「え…」
 その発言を聞いて、越前の大きな瞳が更に大きく見開かれる。
「それって、もしかして〇〇会場?」
「ええ、もうすぐ着きますね…ご存知なんですか?」
 少年の問い掛けに桜乃が応えると、相手は更に驚いた様子だった。
「俺もそこに行くつもり」
「え!? そうなんですか!?」
「うん…あ」
 桜乃もまた驚いている間に、越前ははっとして少女に意外な申し出をしてきた。
「あのさ、頼みがあるんだけど」
「え?」
「…俺が試合してる間、カルピン預かっててくれない? 先輩達もいるけど、猫飼ってるならアンタの方が安心出来るしさ」
「ええ……それは大丈夫ですけど」
「良かった、コイツもアンタとその子には慣れてるみたいだし…じゃあ宜しく」
「はい!」
 そして二人のそんな約束が交わされた時に、バスは会場の入り口に到着した。



「へぇ、今日は桜乃ちゃんが来るんだ」
「おさげちゃん、お弁当持って来てくれるの!?」
「まぁ……色々あってな」
 まさか、自分のあの不手際で許可してしまったとは仲間には言えない…と、真田は着替えが済んで、ベンチで準備をしている間にも浮かない表情だった。
「しかし、お前さん一人か、一緒に来んかったんか?」
「少々弁当の作成に時間が掛かってな…もうすぐバスで着く頃なんだが…」
 そんな仁王の質問に答えていると、丁度タイミングよく…
『お兄ちゃーん!』
「ん…」
「ああ、来たみたいッスよ、ふくぶ…」
 笑いながらそちらを見つつ声を掛けた切原の台詞が、途中で掻き消えた。
 何事かと思ってそちら…桜乃の声が聞こえた方へと視線を向けた立海のレギュラー達も例に漏れず、次々と硬直していった。
 何で…アイツが一緒に…!?
 一番ショックを受けているのは、やはり実の兄である真田弦一郎その人だった。
 歩いて来る桜乃の隣に、一緒に並んでいる若者は紛れもなくあの青学の一年ルーキー!!
「…越前…リョーマ…ッ!」
「? お兄ちゃん?」
 どうしたんだろうと思った桜乃は、兄の視線が隣の少年に注がれている事に気付き、そちらへと目を遣ると、少年もまた明らかに驚いた様子で真田を見つめていた。
「……アンタは…立海の風鈴屋さん!」
「真田弦一郎だたわけ―――――――っ!!」
 一度金縛りが解けたら、真田は一気に相手にがなりたてた。
「き、き、貴様っ! 何で貴様が俺の妹と一緒にここに来ているのだ――――っ!!!」
「妹…?」
 誰が…と思ったが、やはりここで妹と呼ばれるべきなのは一人しかいない。
「…そう言えば…真田って」
 まじまじと越前が桜乃を見たが、彼女は兄とその仲間である先輩達の動揺に驚いて、今はそちらに注目していた。
「弦一郎お兄ちゃん、皆さんも…越前君の事、知ってるんですか?」
「…今日の試合の相手、青学の一年生だよ。まぁ、取り敢えずこっちにおいで、桜乃ちゃん」
 今は桜乃のすぐ傍に相手が立っているのが心情的に許せないのか、幸村が素早く彼女の手を取って、自分達の方へと引き寄せた。
 一方真田は相変わらず越前の前に仁王立ちになって、桜乃と一緒に来た若者に疑わしい視線を向けている。
「貴様いつの間に桜乃と知り合ったのだ…!」
「…アンタが彼女のお兄さん…?」
 まさか、とは思ったが周囲の立海メンバーの対応を見る限りでは、どうやら真実であるらしい。
 しかし…あの純朴で素直な少女と、この強面の男が兄妹…?
「ふーん……で?」
「? 何が、『で?』だ」
「…どっちが橋の下から拾われて来たの?」
「そこへなおれ小童!!」
 ぎゅっと愛用のラケットをきつく握り締めての台詞に、周囲の仲間達の方が驚き慌て、必死に相手に取り縋った。
「わ〜〜〜〜!! 待て待て待て! こんな場所で犯罪はやめとけって!!」
「抑えて抑えて〜〜〜〜っ!!」
 ジャッカルと切原が死に物狂いで止めている向こうでは、仁王と柳生が頭をつき合わせてひそひそと話し込んでいた。
「…俺らでも遠慮して訊かんかった事を、よーもまぁ堂々と…」
「流石、アメリカ育ちは違いますね…下手したらそれこそ訴訟天国ですけれど」
 そして、桜乃は暫くその騒動を、きょとんとして見守るしかなかった。
「…桜乃ちゃんはどうしてあのボーヤと知り合ったの?」
「え…三毛ちゃんと越前君が飼っていたカルピンちゃんが仲良くなって…今日も、カルピンちゃんのお世話を頼まれたんですけど…越前君、悪い人じゃないのにお兄ちゃんったら…」
 どうしちゃったのかしら…と首を傾げ、頬に手を当てて不思議がっている桜乃をちら、と見遣り、幸村はそのまま視線を越前へと向けた。
「さぁね…」
 本当はこれ以上はない程に分かってはいるけど…言いたくない。
(…あの猫を彼女が飼う時には賛成したけど…こんなコトなら俺が引き取っておくんだったよ)
 まさか、こんな所で猫が縁を取り持ってしまうとは…勿論、彼らには何の悪意もないのだから、責めるのも筋違いだろうが…
 そんな部長の隣では、参謀である柳がやれやれといった表情で、渦中の真田を見守っていた。
「弦一郎が平穏に天寿を全うする為には、最早妹君を手放すしかないのではないか…?」
 それはおそらく、言い過ぎでも何でもない…真実だろう。
 しかしそうであっても、彼が可愛い妹をそうそうあっさり手放すことはないだろう…というのもまた、柳の予測だった。
(ああ、困ったなぁ…越前君ともう少し猫語り出来たら、三毛ちゃんとカルピンちゃんのお付き合いのこと、お願いしようと思ってたのに……あれ? そう言えば、カルピンちゃんってオス? メス?)
 肝心なコトを聞き忘れていた…と、猫の縁ばかりを心配している桜乃が知らない間に、更に彼女を取り巻く若者達の縁の糸は、乱戦の様相を呈していくのだった……






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