「え…い、いいんですか?」
「俺らの試合は終わったしの、あいつも今はそんなに忙しくないじゃろ」
軽く言って、仁王は一時桜乃をそこで待たせてレギュラー達のいるベンチへと戻った。
そこでは、他の仲間達と混じって柳生がようやく汗の引いた身体をベンチに落ち着け、次の試合の始まりを待ちながら前を見据えている。
「柳生、柳生」
「? どうしましたか? 仁王君」
「お前さんに客じゃ、お礼を言いたいんじゃと。そこ行ったすぐ先で待っとる」
「お礼…? どなたでしょう…?」
「あー…」
問われ、仁王はいつになく自分がうっかりミスをしてしまった事に気付いた。
「あぁ、しもた…名前、聞き忘れた…えーと」
名前の代わりに相手の特徴を思い出し、軽くジェスチャーも交えて柳生に伝える。
「…青学の制服着た女の子で、長いおさげしちょったの…ハムスターみたいな子じゃったよ」
「ハムスター…」
復唱した柳生の脳裏に、数秒後にはぽんっとあの日の桜乃の顔が思い浮かんでいた。
流石に成績優秀な若者は記憶力も良いらしく、半年近く間が空いていながら桜乃の事を覚えていたらしい。
「……ああ、あの子ですか…随分前のことですが」
「学校も名前も知らなかったそうじゃしな」
「わざわざ来て下さったとは…律儀な方ですね」
彼女が待っているのなら行かなければならないだろうと柳生は立ち上がり、一人でその場へと向かう。
立海の生徒ばかりがいるスペースで、青学の制服を着ていた桜乃は相変わらず目立っており、柳生は苦も無く彼女を見つけることが出来た。
「お嬢さん」
「っ…あ」
相変わらず、きょときょとと首を巡らせていた桜乃に声を掛けて注意を促しながら、柳生は静かな足取りで彼女に近づいた。
「やはり貴女でしたか…仁王君から貴女らしい方が来ていると聞きましたから」
「すみません、わざわざ来て頂いて…試合後でお疲れなのに」
「いえ、構いませんよ」
柔和に笑って対応してくれる柳生の様子に、桜乃はほ〜っと内心感動の溜息を漏らしていた。
(さっきまであんな激しい試合していたのに、もう息が整ってる…やっぱり王者って言われている立海のレギュラーの人って、凄いんだ…)
「ええと、私に何か御用とか…」
柳生に促され、は、と我に返った桜乃は、気を取り直して深々とお辞儀をしながら、本来の目的であった謝辞を相手に述べた。
「あ、あの……前に、ラケットを選んで頂いた時は有難うございました。今も毎日使ってます」
「そうですか…私の見立てが合っていたのなら何より。何しろ女性の好みや力加減は流石に自分の事の様には分かりませんから」
「…そのう…あの時は…」
「え?」
「柳生さん、自分の事を初心者だって…助ける為に気を遣って下さったんですね、有難うございました」
「ああ、いえ…」
そう言えばそうだったか…と思いつつ、柳生は眼鏡を軽く押し上げた。
「お気になさらず。私もテニスに関してはまだまだ新参者です。本格的に始めて一、二年というところですから」
「え!?」
「その前はゴルフを嗜んでいましたから、幸い基礎体力はあったんでしょう。しかし私も、まだまだ学ぶべきところは多い。そういう点では貴女と同じですよ」
「凄いです…私なんか、まだまだ基礎の基礎でつまずいたりしてるんですよ」
あまり運動神経も良くないし、と照れ臭そうに笑う桜乃につられて柳生も微かに笑った。
無理に自分を対等に見せようと、背伸びをしないありのままの姿は好感を持てる。
「初めこそ、基本を大切にするべきです。後は貴女の努力次第ですね」
「はい」
頷いた桜乃は、あまり相手を引き留めるのも悪いと思い、暇をしようと再び一礼した。
「もっと早くお礼を言いたかったんですけど、あれからずっと会えなくて…あのお店に行った時もいらっしゃらないか気をつけてはいたんですが。遅くなってごめんなさい」
「いいえ、私もたまに行く程度でしたし、部活の帰りとなるとほぼ閉店時間近くになってしまいますから仕方がありません。まさかここまで来て下さるとは思っていませんでしたよ…」
そして、相手の名を呼ぼうとして、それを知らなかった柳生は口篭り、ああと頷いた。
「すみません、試合を見ていたならもうご存知かと思いますが、私は立海の中学三年の柳生比呂士と申します。貴女の名を伺っても宜しいでしょうか」
「あ…そう言えば名乗ってませんでしたね…ええと、私は青学の一年の竜崎桜乃と言います、柳生さん」
「そうですか、竜崎さんと…」
復唱したところで、柳生の頭の中で何かが引っかかった。
(ん? 竜崎…?)
何処かで聞いた様な名前ですが…と思い出そうとする前に、桜乃が彼に別れの挨拶を告げていた。
「じゃあ、試合も始まりそうですし失礼しますね。お邪魔してすみませんでした」
「あ、ええ…ごきげんよう」
同じく一礼して桜乃と別れた後、柳生は元のベンチへと戻って行き、相棒の隣へ腰を下ろした。
「おう、会えたか?」
「ええ、確かに前に一度お会いしていた方でした。わざわざお礼を述べに来て下さるとは、礼儀正しい方ですね」
「………それだけか?」
「? 他に何か?」
実に事務的な反応しか返さない相手に、詐欺師はつまらなそうにはっと息を軽く吐いた。
「つまらんの〜〜、普通はそこから男と女の付き合いが始まるもんじゃよ」
「貴方の普通が世間一般の普通と同じだと思わないで下さい」
そんな不埒な理由ではありません、と一蹴した後、柳生はふと押し黙り、ぼそっと小さく呟いた。
「…竜崎…何処かで聞いたんですけどねぇ…もう少しで思い出せそうなんですが…」
「竜崎? 何じゃ、向こうの顧問の先生がどうかしたか?」
「……」
さらっと答えた仁王の言葉に、柳生は暫し沈黙し、思わず声を上げそうになったところをかろうじて抑えた。
大きな音をたてるのは、紳士にあるまじき行為だ。
しかし、抑えられたからといって彼の動揺が即座に収まったという訳でもない。
(竜崎! そ、そうでした、確か青学の顧問が竜崎先生だったと…では彼女は、もしかして…)
一度可能性を疑うと、自分には殆ど関係ない事と分かってはいてもどうしても気になってしまい、柳生は試合の合間に向こうの青学側の観客席を目を凝らして見つめ、あの顧問の教師の傍に桜乃の姿を見つけたのだった…
それから関東大会は無事に終わり、そして世間では月日が何事も無かったかのように過ぎて行き、共に夏も過ぎ去った季節の頃…
「柳生〜、今日の放課後、どっかに遊びに行かんか?」
「お断りします」
相棒の仁王が持ちかけてきた誘いを、紳士はにべもなく断っていた。
もうすぐ部活も終了するという時間に誘いを掛けた詐欺師は、ちっと舌打ちしながら同時に指も鳴らす。
「何じゃ、やっぱり無二の親友である俺の誘いも断るんか…男の友情は脆いもんじゃの〜」
「今日が予定が塞がっているという事は、前々からお話していましたよ。何を今更…」
渋い顔で苦言を呈している間に、二年の切原が傍で彼らの話を聞いていて興味深そうに割り込んできた。
「あれ? 今日って柳生先輩、都合あったんスよね? だから今日の先輩の誕生日、別の日に改めて皆で祝おうって言ってたじゃないスか仁王先輩…」
「うん、柳生は今日、愛しのジュリエットに会いに行くからの」
「仁王君っ!!」
「ジュリエット?」
珍しく声を大きくして発言を止める柳生に構わず、仁王は後輩に思わせ振りに笑った。
「柳生のお気にの子が青学の奴なんでなー、ロミオとジュリエットって呼んどるんじゃよ」
「俺それ読んだことないんスけど、結局最後は二人とも死ぬんですよね?」
「そうそう」
「二人してなに不愉快な会話を繰り広げているんですか…仁王君も、人のプライバシーを侵害しないで下さい」
「はは、分かった分かった」
ひらっと手を振りながら、仁王は思わせ振りな笑みを浮かべつつ離れていく。
「確かに、こないだお前さんに化けた時に偶然会ったんじゃが、可愛くて良い子じゃったのう…あっさりバレたが、俺からもよろしく伝えといてくれ」
「宜しくありません」
絶対嫌です、と断固拒否の姿勢を貫き、柳生はそれから部活が終了するとさっさと身支度を整えて部室を後にしてしまった。
(全く…これからは入れ替わる事についても慎重に考えないといけませんね…まぁ彼女なら見破ってくれるとは思いますが)
そんな事を考えながら柳生が急ぎ足で向かったのは、あの都内のスポーツ店だった。
あれから、関東大会のあの日から暫くした或る日、彼は三度桜乃と出会った。
それは半ば仕組まれた偶然。
自分よりほんの数年早くテニスを始めた若者の、目覚しい上達振りに興味が沸いたのか、彼の教示に惹かれるものがあったのか…
桜乃は彼から聞いた店を訪れる時間帯を記憶しており、何とはなしにその時間帯に合わせて自分も店を訪れるようにしたのである。
そして彼女のささやかな努力の甲斐あって、二人は約束も交わす事無く店で再び出会い、何気なく会話を交わす仲となった。
それが例え緩やかな歩みであったとしても。
繰り返し、店で出会い、その度に何気なく会話を交わす内に、それは徐々に時間を長くしてゆき…反対に彼らの距離を短くしていった。
元々が出しゃばる事無く、内気で大人しい桜乃の性格も柳生に合ったのだろう。
それに二人ともがテニスが好きだという共通の話題も彼らの仲を深める大きな一助となっていた。
いつしか、二人が店に赴く理由の第一が、互いに会うという目的そのものになり、不定期だった柳生の店への訪問も、桜乃と次の再会を約束するようになってからは、決して破られることは無かった。
そして今日、自分の誕生日に、柳生は桜乃と出会う約束を取りつけていたのだ。
その日に会おうと言い出したのは、桜乃である。
彼女が柳生の誕生日を知っていてそう言ったのかそれとも単なる偶然だったのかは分からない、確認もしていない。
確認をしなかったのは、相手に気を遣わせてしまうことを慮ってのことと、自分でも分からない恐れを抱いたからだ。
桜乃には、自分の誕生日を知っていてほしいと願う一方で、もし既に彼女が知っていたら、と思うと、その喜びを感じる事にすらも恐れを抱いてしまう。
嬉しいのに、その嬉しさを感じていいのだろうかという不安、恐怖が柳生の心に生じ、それが皮肉にも、彼に己の気持ちに気付かせることとなった。
そう…好きになってしまったのだ、彼女が。
スポーツ店の中で会うばかりで、他の場所に共に行った事も無く、手も繋いだ事もない…テニスを通じての友人であった筈の彼女が、いつの間にか自身の心の中で大きな存在になっていた。
相棒に、青学と立海とで引き離された恋人たちと冷やかされた時には、もう自分でも桜乃に恋していることは分かっていた…が、実はいまだ告白には至っていない。
これだけ会っていながら、笑顔で会話を交わしていながら、桜乃の自分に向けてくる笑顔と言葉が友人としてのものなのか、それ以上の意味があるのかすら分からない…情ない話だ。
(この難解さに比べたら、テニスなど明瞭極まりなく見えますね…ボールは見えるし、ルールも定まっているのですから……これでは、私の思い描く夢が成就するのはいつになる事か…)
そう思っている内に、柳生は約束場所のいつものスポーツ店に到着し、自動ドアを抜けて中へ入った。
「柳生さん」
入ってすぐに、近くのスペースから声が掛けられた。
「お待たせしましたね、竜崎さ…」
詫びの言葉を紡いでいた柳生の口が、彼の目が相手を捉えたところで動きを止めた。
「…え?」
いつもの彼女と違う…
いや、間違いなく竜崎桜乃本人なのだが、その出で立ちがいつもの制服ではなく、ブラウスにスカートといった私服姿だったのだ。
しかも、おさげも解いていつもよりずっと大人びているというか、艶めかしい雰囲気。
これまで店で会う時は例外なく制服だった為、完全に意表を衝かれた柳生は、少しの時間思考を整理するのに無言で佇んでしまった。
これは一体…?
「…あの、柳生さん?」
「…! ああ、失礼しました」
は、と我に返ったところで、自分を見上げてくる桜乃と視線が合う。
「どうかされましたか? 部活でお疲れなんじゃ…」
「いいえ、大丈夫です…その、今日は一段とお美しい」
「!!」
柳生が嘘や冷やかしでそういう台詞を言う様な男性ではないということは、もう桜乃も分かりきっている事実である。
だからこそそれが心からの正直な感想であると知り、桜乃が頬を染めた。
「有難う、ございます…どうかと思いましたけど、折角の日ですから」
「え…」
折角の日、とは?と尋ねる前に、少女は再びまだ顔を赤くしながら柳生を見上げてきて、一つの願いを口にした。
「今日は、少しお時間ありますか? 柳生さんにお願いがあるんですけど…」
「願い…何でしょう?」
「そのう…柳生さんが一番欲しいものを教えてもらいたいなって思って…今日、ですよね? 柳生さんのお誕生日」
「!!」
知って、くれていた…?
彼女が自分の誕生日を知ってくれていたらどんなに嬉しいことだろう…そしてその喜びはどんなに恐ろしいものだろう…そう思っていた。
その恐れは、或る意味正しかった。
その証拠に、彼女の今の言葉が嬉しくて、胸の高鳴りが激しくて、今にも止まってしまいそうなのだから…
(ああ…私は…このままでは私でいられなくなってしまう…彼女は、それを許してくれるのでしょうか…?)
不安に駆られる柳生の前で、桜乃はごそ、と手にしていたバッグから封筒に入れられた小さなメッセージカードを取り出した。
その表紙には、『柳生さんへ』と小さな文字が手書きで丁寧に綴られている。
そこまで準備を整えておきながら、何故か桜乃の表情は曇っていた。
「…一生懸命考えたんです。何が喜んでくれるのかなって…でも、テニスのものもゴルフのものも、柳生さんが満足出来るようなものを選び取る自信がなくて……ちゃんとカードは準備したんですけど…添える贈り物がどうしても思いつかないまま今日になっちゃって」
「……」
「…野暮な事だとは分かっていますけど…もし、柳生さんが何か欲しいモノがあるなら、それを教えてもらえたら、私がそれをプレゼントしたいと思って…もしすぐに決められないなら、一緒にそれを選びに行けたらいいなって思って…私達、ずっとこのお店でお話してばかりでしたし…あ、でも、ここのお店のものでも全然いいですよ?」
内気な少女の、精一杯の誘いだということは十分に分かっていた。
震えそうになりながらも、それを我慢して一生懸命言葉を伝えてくる少女の健気さに、柳生は軽い眩暈を覚えながらもしっかりとそれは自制心でコントロールし、彼女の前では紳士であり続けた。
そして、相手が言葉を切ってから少しの間を置くと、柳生は先程入ってきたばかりの自動ドアを指で指し示す。
「…少し、歩きませんか?」
「え?」
「歩きたい気分なんです…宜しければ、ご一緒に」
「は…はい」
桜乃の質問にすぐに答えを返さず、彼は相手を連れて再び店の外に出ると、そのまま左に歩き出す。
普段の歩みはもっと速いものだったが、今日の彼のそれは桜乃を気遣っているのだろう。
しかしそれでも、まるで彼自身がそう望んでいる様に、一歩一歩を確かめ、記憶に刻みつけようとする様に、柳生の歩みは緩やかだった。
二人並んで歩き出し、暫くしたところで、立ち止まらないまま柳生が呟いた。
「…私の望むものですか」
少し考えて、彼は真っ直ぐに前を見据えたままに続ける。
「……お気に入りの喫茶店が近くにありますから、そこで貴女と一緒にお薦めのティーセットを頂きたいですね……英国式の、とても静かで良い雰囲気の店なんですよ」
「あ、それでいいんですか? それじゃあ…」
それなら十分に予算内でプレゼント出来る…と考えた桜乃に、すかさず彼の断りの言葉が聞こえた。
「私がご馳走します」
「え!? だ、だめですよ! 今日は私が柳生さんにプレゼント…」
「いいえ」
若者の拒絶は頑なだった。
「それは、私の紳士としての精神に反します…絶対に受け取れません」
「でも…じゃあ」
私はどうしたら、あなたに贈り物を受け取ってもらえるのか…という視線での問い掛けを、表向きは横顔で涼やかに受けながら、柳生は更に桜乃と並んでゆっくりと歩いて行く。
彼が答えたのは、その場から十歩歩いた頃だった。
「…ずっと、夢見ていたことがあるんです」
「…夢…ですか?」
「ええ……子供っぽい夢ですけどね…私にとっては大事な夢なんですよ…もし」
「……」
「もし私に恋人が出来たら…静かで落ち着いた場所に二人でゆっくり、美味しいお茶とお菓子を前に座って……窓から見える景色を眺めながら、静かに語り合いたいと」
「…!!」
静かで落ち着いた場所…お茶とお菓子……それって、まるで私達が今から行こうとしている…
「子供の頃に何かの映画を観ていた時に、そんな恋人達のシーンがありましてね…モノクロの世界なのにその二人が本当に幸せそうで、美しくて、演技だと分かっていても子供心に羨ましくて…憧れていましたよ」
「柳生さん…」
彼が何を言わんとしているのか、流石に察した桜乃が小さく声を掛けると、彼はゆっくりと足の歩みを止めながら彼女の方に向き直った。
「その夢を…私は貴女に叶えてほしいのです」
「っ…!!」
気付いた時、桜乃は手に持っていたあの封に入れられていたメッセージカードを柳生にさり気なく奪われていた。
「贈り物ならこのカードと一緒に……貴女を私に下さい、愛しい恋人として…他には何も要りません」
そして、カードの次は、自身の身体も相手の胸の中に抱き包まれ、その強い力と温かな抱擁に、桜乃は身動きが取れなくなってしまう。
答えたいのに、この展開をまだ夢だと思ってしまっている心が桜乃の言葉を止めてしまっている間に、柳生の密やかで苦しげな声が耳元で聞こえた。
「…私は…紳士失格ですね」
「え…」
「……本当は、こんな場所で告白するつもりはなかったのです…貴女が混乱することは分かっていました、もっと落ち着ける場所でお話するべきでした……しかし、私はもう、一秒と長く貴女の答えを待てそうにありません……見苦しい醜態を晒してでも」
私は、貴女が欲しい…
「…っ」
男の求愛に、少女は小刻みに身体を震わせた。
言葉だけなのに、身体を抱き締められているだけなのに、まるで今、電流が全身に走っていった様だった……
そして今も、身体も心も、その余韻に痺れたまま。
何で、こんなに心地良いんだろう…ううん、理由はもう分かっている筈。
私は…私も…この人と同じだったもの…
「…だい、じょうぶですよ…柳生さん」
声が震えるのは…心から溢れてしまいそうな程に幸せだから。
そして、それをくれたのが他でもない、貴方だから。
「後でも、先でも…私の答えは同じですから……『はい』って…」
「!……竜崎さん…」
「私も…大好きです」
秋の風が優しく吹く、とある街の遊歩道で
その二人の若い恋人たちも、さながら映画の一場面の様に輝いていた
了
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