一週間後…
「おう、久し振りに来たな」
「……」
いつか、柳と仁王と話していたあの学生は、講義室で久し振りに会う知己に声を掛けていた。
あのストーカー気質の男が、珍しく講義に出席する為に着席していたのだ。
向こうはこちらが話しかけても返事は返さず、何となく顔色も悪かったが、あまり普段と変わらない状態だったので特に気にする事もなく、知己は続けて話しかけた。
「噂で聞いたけど、お前また誰かに付き纏ってるんじゃないか? いい加減やめとけよ」
「……あのさ」
「ん?」
そのストーカー気質の男は、妙に落ち着かない様子で怯えた様に周囲を見回した後、その相手に小さな声で言った。
「…俺、お、男にストーキングされてるみたいなんだ……どうしたらいいと思う?」
「…は?」
違うだろう、ストーカーなのはお前だろう。
思わずそう言いそうになった学生だったが、向こうの挙動不審な様子を見ていると、確かに何者かに付け狙われているかの様な怯え方をしている。
え? つまり…?
混乱している相手に構わず、そのストーカーはこれまでの経緯を一気に捲し立てる様に話し出した。
「悪戯だと思ったんだよ最初は! ガキが嫌がらせでやってんだと思ってたのに、毎日毎日、何通も気持ち悪い文書が入った封書がポストの中に入れられてて、俺の隠し撮りも何枚も撮られてて、電話まで掛かってくるようになったんだ! あんなに執着して徹底したストーキング、そこらのガキが出来る事じゃない! それに最近は、いつの間にか俺の後をこっそりつけてくる男の姿も見えるようになって…マジで気が狂いそうなんだ!」
(……こいつが過去にやったことと、殆ど同じコトなんだがな)
人にやっている時には罪悪感の欠片もなかったのに、自分がやられたらそれなりにダメージなのか。
自業自得なのかどうか知らないが、内心やや呆れながら知己は当たり障りのない忠告を行ってから席を離れた。
「…取り敢えず警察に行って話したらどうだ?」
「……」
ストーカー男は答えなかった。
行って解決出来ることならやっている…実は一度だけ相談には行ったのだ。
ところが、自分がとある女子中学生に過度に接触しているという情報が既に向こうに行き渡っていたらしく、逆に疑われるような形になり、殆ど助けも求められない状況のまま終わってしまった。
これこそ明らかに自業自得である。
本当にあの少女についていた男達の仕業ではないかと思ってはいたが、どうやら彼らが所属しているらしいテニス部の活動を見ていても、それらしい若者達が欠けている日は一度もなかった。
全員がちゃんと参加しているのを自分自身が見届けているのだ。
なのに家に帰れば、既にあの例の封書は人の手で投函されていて、更に最近は外出中、必ず自分につきまとう人間の気配を感じてしまっている。
間違いなく男で、一定の距離をおいて物陰に隠れながらこちらをじっと見つめてくる…視線が恐ろしく鋭い、強面の男。
一度、勇気を出して正体を確認しようと思い、そちらに敢えて走っていった事もある。
もし向こうが只の悪戯でしている事なら、向こうが逃げるかもと思った…が、自分が向かって来ると気付いた相手の男は、逃げるどころか逆に待っていた様に同じくこちらに向かって来たのだ。
(ヤバイ!!)
この状況から考えると、自分にあの熱烈な、常軌を逸したラブレターを送ってきているのは、やはりあの強面の男!?
そんな奴に一度でも捕まったらどうなるか…最悪、筆舌に尽くしがたい辱めを受けてしまうかもしれない!!
「&%$#‘&$!!」
自分がどんなに情けない声を上げているのかも分かっていないままに、その時ストーカー男は慌てて逆方向に方向転換し、泡を食って逃げ出していた。
幸い捕獲される事はなかったが、その時に真の恐怖というものを心に刻み込まれてしまい、それから一層、男は周囲の全ての気配や物音に過剰に反応するようになってしまった。
立海であの少女をストーキングする為にはどうしてもあの場に赴かなければならず、その度に現場や帰り道で自分の姿が何処かから盗撮されては送り届けられている…相変わらずの気持ち悪い文と共に。
日々の緊張と、絶え間なく与えられる心への攻撃は、否応なしに精神をすり減らしていく。
そして彼は、最終的に家の中か大学の中に逃げ込むしかなくなっていた。
大学は、外はともかくも校舎の中は一定の警備体制がかけられているし、不審者がいたら通報することも出来る。
実際この中にいる間は、彼が盗撮の被害に遭った事はなく、不審者に追い回される事もなかったのだ。
いつの間にか哀れな立場に追いやられてしまったストーカーは、徐々に精神的に追い詰められ、自分以外の事を考える余裕すら与えられず、結果、桜乃へのストーカー行為など行えない状況に陥っていた。
更に二週間後…
「まぁ、やる気もなくなるよね、ここまで徹底的に追い回されたら」
「しかも同性ですからね。世間もそういう形での愛にはやや寛容にはなってきていますが、やはりその嗜好を持ち合わせていなければ、到底受け入れる事など出来ないでしょう」
いつかの様に、ファミレスで集まっていたレギュラー達はドリンクサービスを利用しつつ戦況の確認を行っていた。
幸村や柳生がまったりと人事の様に語っている向こうでは、切原と丸井が相変わらずうひゃひゃひゃとノリノリで文面を書いている。
「よくネタが切れないもんだ」
「嫌な奴に嫌な思いをさせるのが楽しいのだろう」
ジャッカルの言葉に淡々と柳が応じている間に、仁王が肘を付きながら面白そうに笑った。
「早変わりはなかなか難しいもんじゃが、お陰で結構腕は上がったぜよ」
「しかし、まさか私達の技がこんな所で役に立つとは…」
柳生も少々戸惑いがちに笑っていたが、正にこの二人が今回の作戦の立役者だったのだ。
「向こうも、流石にお前達が日替わりで一人二役を演じているとは思わなかっただろうからな」
つまり、種明かしをしたらこういう事だ。
相手が立海でストーカー行為を働いている時、仁王か柳生のどちらかが、こっそりと練習から抜け出して、ストーカー男の盗撮をしたり、ストーキングしたり、先に相手の家に例の投函を行っていたのだ。
他人の心を読むコトに長けていた彼らは、向こうの男が実は自分達年下にさえ怯む程の小心者であることをあっさりと看破していた。
だから、一方的な鬼ごっこは退屈な程に簡単で、駆け引きも容易く、桜乃の件の恨みもあってとことん、徹底的に追い詰めていた。
勿論その間、彼の姿はコートから消える訳だが、もう一人の相棒が部室に引っ込むなりしてその間に相手に成り代わり、いけしゃあしゃあと参加を続けていた。
まさか男も、中学生がそんな隠し技を身につけているとは思わないだろう。
結果、向こうはまんまと騙され、それにも気付かず全くの別人が自分のストーキングをしていると思い込み、実在しない人物に怯える事になった。
「けど、向こうもかなり切羽詰まっている感じだぞ、そろそろ止めてやってもよくないか?」
このままじゃ精神が壊れるかもしれないとジャッカルは同情的な意見を述べたが、それには柳がやや慎重な意見を出した。
「ジャッカルの言う通り、相手はストーカー行為も止めている事だし、そろそろこの作戦も終わりだ。元々俺達の目的は奴の矯正ではなく、竜崎の保護だ。彼女が無事なら文句はない…しかし、最後の詰めはしておいた方がいいだろう。二度と彼女に近寄りたいと思えなくなる様な詰めをな…」
「詰め…?」
そんな事するなんて聞いてなかったな…と思うジャッカルの前で、柳がくるっと真田へと振り返る。
「いよいよお前の出番だ、弦一郎。しっかり頼むぞ」
「…これまでの手管には正直ついていけなかったが、これならば俺の最も得意とするところだ。実際奴がどれ程の男だったのか、一度ぐらい見てやってもよかろう」
「???」
そんな会話の謎は、次の日明らかになった。
翌日の夕刻、その日もストーカー男はかつての自分の影に怯えながら、大学から自分のアパートへ直帰していた。
少しは被害者の気持ちを知る事が出来、反省したかとも思われる男だったが、やはり現実はそんなに甘くはなかった。
本当はまだあの少女への未練は残ってはいたが、今は自分の身の方が可愛いから立海へ向かっていないだけであり、柳の懸念の通り、このまま手を引いていたら桜乃はまた被害に遭うところだっただろう。
「くそっ! 何で俺がこんな目に…桜乃ちゃんに会えなくなったのもみんな、あの変な奴の所為で…」
もう何日こんな事を繰り返しているのか。
己を省みることもなく、そんな愚痴を思い切り零しながら彼はアパートの自分の部屋の前に立ち、がちゃがちゃとポケットからキーケースを手探りで探しだす。
その時、ふと隣から声が掛った。
「そうか、まだそんな事を言うのか…」
「!?」
今までの恐怖体験から、男の声には特に敏感になっていたストーカーが驚いて振り向くと、そこには自分より長身で厳格な顔立ちをした、黒の帽子を被った若者が仁王立ちで立っていた。
「ひっ…!!」
飛びずさるように下がったストーカーだが、その身体はどんっと別の誰かに背中からぶつかってしまう。
再び驚いて振り向くと、そこにはもう一人別の銀髪の男が笑っていた。
「お帰りんしゃい」
「…お前ら…・お前はっ!!」
もしかして、アパートの死角に潜んで、自分の帰りを待っていたのか…!?
何度もその若者たちを交互に見ていた男は、その内の帽子を被っている方の学生に、明らかな恐怖の視線を向けた。
今までコートでの姿は見ていたが、帽子に隠れて気がつかなかった…こいつ、この顔は…間違いない…!!
「まさかお前が…!?」
「ん?」
相手の反応を訝しく思った真田だったが、その直後、仁王の手刀が彼の首筋に決まり、あえなくダウン…それ以上の発言は聞かれる事はなかった。
「…? 何を言おうとしていたのだ?」
「さぁ? それよりも早く運ばんとな…どれ、準備していた廃棄処分のカーペットを…と」
何故か相手が自分を知っていた様な…その上で激しく怯えていた様な気がする…と感じた真田だったが、相手が失神してしまってはもう聞く事も難しい。
仕方なく仁王に急かされる形で、彼はかつて絶世の美女が運ばれた、という方法と同じやり方でカーペットに男をぐるぐる巻きにすると、それを二人掛かりで抱えてえっさほいさと運び出してしまった。
「…う」
男が再び目を覚ました時、彼がいたのは見覚えのない場所だった。
板張りの床が続く、暗い部屋…いや、部屋と呼べる様な場所ではない?
かろうじて見える向こうの壁に据え置かれている神棚と、『風林火山』と書かれた掛け軸が、特殊な雰囲気を醸し出している。
「何だよここは…」
「我が家の道場だ…ようやく目を覚ましおったか、たるんどる」
「っ!!」
再びの声に振り返ると、暗闇で見えなかったが、あの帽子の男が道着に着替え、帽子も取った状態で佇み、こちらを見下ろしていた。
「うわあぁぁ!!」
「本来であれば貴様の様な輩、兜割りにして捨て置いても良かったが…『一寸の虫にも五分の魂』という。ここまできてまだ己を改めないのは、貴様が屑だからか? それともいびつでも本気で想っているからか? もし貴様があの娘に対し、そこまでの想いを抱いているとするなら、その覚悟この場で見せてもらおうか…」
真田の言葉は彼の意志を的確に表したものだったのだが、今の相手の男にとっては、かなり意味の異なるものへと変換されてしまっていた。
(や、や、や…やっぱりこいつだ! 俺を…俺をストーカーしてた奴だ!!)
恐怖に喉がひきつりそれは言葉としては出てこなかったが、目の前に仁王立つ若者は、これまでずっと自分の近辺に気配を感じていた『あの男』だった。
いかめしい顔と鋭い眼光…間違えようがない、俺を追いかけていた奴だ!!
…実は、仁王と柳生は予め彼をストーキングする時に真田の姿でそれを行っていたのだが、本人には内密だったので、真田はそれを知らない。
だから、男の尋常ではない怯えっぷりを見ても、それは単に相手が肝の小さい奴だからだろうとしか思わなかった。
しかし、男の心の中では…
(今の言い方…間違いなく、コイツ、あの女に『嫉妬』している!! お、俺が女に夢中だから、こいつ遂に実力行使に出やがったー!!)
もしその心の声を真田が聞けていたら、彼の方が屈辱に腹を切っていたかもしれないが、幸い、それは果たされる事はなかった。
「何をぶつぶつ言っている! 男ならいい加減覚悟を決めんか!!」
「〜〜〜〜!!」
男でも『そういう道』は御免だとばかりに、ストーカーは背を向けて道場の入口へと走り、その扉を開こうとした…が、何度試しても全く動く素振りがない。
「え…ちょ!?」
「無駄だ、そこは外から鍵を掛けてもらったからな…俺が言わん限りは開かんぞ」
その言葉の通り、扉の向こう側では掛けた鍵を宙に放り投げては受け止める、幸村の姿があった。
いや、よく見ると真田以外の全員がそこで揃って内側の様子を伺っている。
「り、立海名物、真田の地獄の特訓か…こりゃストーカーより怖えって…」
「噂に聞く、寿命が二十年縮むと言われているアレっすね…」
ジャッカルと切原がこそこそと怯えた様に話している向こう、道場の中から、いよいよその特訓の始まりを告げるストーカーの悲鳴が響いてきた…
勿論真田には倒錯した趣味など微塵もなく、健全な精神それのみしか持っていなかったので、男が恐れていた怪しい展開にはなる筈もなかったが、別の意味では確かに地獄だった。
『なにいいぃぃぃぃっ!? 腕立て伏せのたかが百回もこなせんだと〜っ!?』
『もっと腰を入れんか腰をーっ!! そんなへっぴり腰で構えているつもりか貴様―っ!!』
『この程度の実力でよくも女を追いかけ回す気になれたものだな!! そのたるんだ根性、徹底的に叩き直してやるわ! 覚悟せいっ!!』
『これで竜崎の恋人になろうなど一億年早いっ! 俺を倒せん限りはそんな世迷言、二度と口にするなーっ!!』
これでもかという叱咤のオンパレード…罵声の格安大安売り…
聞いているこっちが、ストーカーの方が逆に哀れに思えて泣きたくなる…
「可哀想になぁ…」
「強く生きるんだぜい、ストーカーの兄ちゃん…」
自分達で散々追い込んでおきながらそんな台詞を呟き、くぅっと涙を堪えている丸井やジャッカル達の傍では、淡々と柳が最後の仕上げを確認していた。
「…これでいい…竜崎に下手に近づいたらまた弦一郎の特訓に付き合わされると思えば、奴も二度と手出しは出来ないだろう…彼女に近づくなと言うより、余程効果的だ」
「……………」
静かに聞いていた切原が、ふと柳の方を向いて進言。
「…えーと、だったら最初からこうしてたら良かったんじゃ…」
あんなストーカーの真似事なんかしなくても、という後輩に、先輩は背を向けたまま答えた。
「敵を論破するなら、相手が疲れ切ったところが狙い目だとヒトラーも言っているからな…」
(論破違う…)
そんな生易しいものじゃなかった…と後輩が顔を青くしていた脇では、幸村が場違いな程に爽やかな笑顔を浮かべていた。
「でも、あれで追い回される恐怖というものを彼も身をもって知ったからね…また同じ様な事をしようとしたとしてもその度に恐怖を思い出す事にも繋がるから、これまで通りって事はもう無理じゃないかな」
「しかも、真田の様な強面の男にのう…」
「そうさせたのは私達ですけどね」
そんな事はまるで知らない真田は、相変わらず怒声を上げて貧弱な年上のストーカー男を徹底的に鍛え続け、それは延々三時間近くも続いた。
「…話にならん」
「〜〜〜〜〜〜〜っ…」
瀕死のドブネズミの様に床に身を投げ出して、必死に呼吸をしようとしている男に、真田は呆れ切った声をぶつけていた。
自分にとってはこれでも手加減しているという特訓だったにも関わらず、年上の男はろくについてくる事も出来なかったばかりか、急な運動で体が反応したのか嘔吐までする始末。
こんな惰弱な男が、何故そこまで自信たっぷりに女性に自分をアピールする事が出来るのか、真田は不思議で仕方がなかった。
別に力さえあればいいと言っている訳ではない、多少非力であったとしても、相手を思い遣る心がそれを補填することもあるだろう。
しかしこの目の前の男には、どう見ても自分への『甘え』しか感じられないのだ。
「これでは竜崎に相応しいどころか、そこらの女一人守ることなど出来ん! もしこれからも彼女の前に出てきた時は、相応しい男になる希望があると看做し遠慮なく特訓を行う!! 情けなど掛けんぞ、本気で来い!!」
「ひっ…!!」
鬼が啼いたか雷が轟いたかという怒声に、年上の威厳も気概もなくその男は竦み上がる。
そしてその声が合図になったのか、ようやく閉ざされていた地獄の扉…もとい道場の扉が開かれた。
幸村が開けたそれを見た途端、最後の最後に残されていた体力を振り搾り、ストーカー男はよろめきながらも慌ててそれを抜け、逃げて行った。
もう、悔し紛れの言葉を吐く事すら思い浮かばない。
兎に角、逃げなければ身がもたない。
冗談じゃない!!
あの女につき纏う限り、変な趣向の男に追い回され、しかも嫉妬でこんな死ぬ思いまでさせられるだなど、冗談じゃない!!
もういい!! あんな女なんか要らない!!
二度と、二度とこんな処には来るものかっ、恐ろしい!!
たかが女一人に手を出そうとしただけで、こんな目に遭うのか…っ!!?
結局、反省したのか己を省みたのかよく分らないまま、そのストーカー男は姿を消し…それから二度と桜乃の前に姿を現すことはなくなったのだった…
「あの性癖はすっかり影を潜めたらしいな…流石に堪えたか、同級生の話だと退学して家に戻ったらしいが」
「自業自得だね」
全ての騒動を片づけた後、レギュラー達はのんびりとした日常を取り戻し、そして同時に普段の朗らかな桜乃の笑顔も取り戻していた。
あの男の姿は一切見えなくなり、悪戯もなくなり、全ては穏やかな日々に戻った。
『もう大丈夫みたいです』
にこやかに言った少女はそれが何故なのか首を傾げていたが、全てを知る男達の誰も、その真実を語る事はないだろう。
そう、彼女に対しては……
「しかし、あの程度の仕置きであそこまで怯えるとは、根性のなっとらん奴だったな」
たるんどる、と言った真田に、食べる事に夢中になっていた切原が殆ど条件反射で答えたのだが…
「そりゃそーでしょ、相手が特殊性癖のヤローだと思ったら、フツーは引きますって」
「?」
「バカ!! 赤也っ!!」
絶対に言ってはいけない事を!!と丸井が慌てて嗜めたが、時既に遅かった。
「……何だ? その性癖というのは」
「いいい、しまった…!!」
「お前、もうその口縫っとけ、マジで…」
ああ…とジャッカルが十字を切っている向こうで、そもそもの発端となった仁王達があららーと苦笑していた。
「…ちょっとこれは誤魔化すのが難しくなりましたね」
「実害はないじゃろうが、出来れば内密にしときたかったのう…」
「いいからさっさと話せ。何か物凄く嫌な予感がする…」
わなわなと震える真田に、仕方ないと腹を括った仁王が、ぼそぼそぼそ…と内緒話で事の真相を語った。
「……………!!!!!!」
全てを聞かされた真田は、声も出せない様子でぐぐぐ、と拳を握り締めて俯く。
「……つまり、俺がそういう趣味の男だと思わせたと…っ!?」
しかも、結局あれから相手には会っておらず、誤解も解いていないまま…!!
「いやだってのう…俺らのルックスじゃと、相手を下手につついてソッチの道へ目覚めさせてしまうかもしれんし」
ついでに、お前の姿を借りてクリーニング代を立て替える代わりの仕返しでもあったし、とは仁王は心の中でのみ暴露した。
「その点、真田副部長の見た目なら間違いなく引かせられますし、万一好みで襲われた時にも、迎え撃てるでしょうから」
「絶交だお前ら―――――――――っ!!!!!!」
そのストーカー騒動で最も不幸だったのは、もしかしたらあの少女ではなく、堅物でも純粋過ぎる程に純粋なこの男だったのかもしれない……
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